Que c'est beau! Tout est beau!2014/04/14 21:04:22

「二条城に行きたい」
「なんで、また」
「スマホがそう言うてる、二条城の桜が見頃やって」

スマホが、言ったのか、そんなことを(笑)。
二条城に限らず、京都ではまだまだ桜がきれいである。染井吉野よりそのほかのさまざまな山桜は開花が少し遅いし。でも二条城はウチから近いからそう言ったのだろう。いや、スマホではなく小百合が。


「初めて来たわ、二条城」
「マジ? 関西人ちゃうやん」
「いや、こんな超ど級観光地は、遠方の人のほうがようきゃはんねんで」
「そやな」
「初めて来たけど、来てよかったわあ」
「そうか」
「素晴しいやん、ここ。さすがは京都や」
「まあな」
「外人ばっかりやな。すごい集客力。インターナショナル〜」
「この人らにとって一生に一度の二条城かなあ」
「リピーターかもしれん」
「ユーロ高やしな」

私も家から近くなければこんなに何度も来ないだろう。
どこがおすすめ?と尋ねられたらたいてい二条城と答える。「二条城ならご一緒しますよ」と言えるからだ。小百合が言うように、京都に住んでいても(住んでいるから、ともいえるが)観光地には疎い。人混みが嫌いだから、オンシーズンはなおさら近づかない。けっきょく春と秋には行かないということになるので、その観光地の最も美しい風景は見たことがないわけである。
その点、二条城はなんといっても近いので、億劫がらずにちょこちょこっと行って帰れる。


小百合は「素晴しい」を連発した。国宝の二の丸御殿のそこここで、本丸御殿の前で、天守址で、庭園で。イタリアンレストランを経営している小百合は、集客ポイントに敏感だ。何が人の注意を惹くのか、何が人を欲求を満足させるのか、幸せな気持ちにさせるのか。いったん自分のテリトリー(店)に足を踏み入れた人は、絶対に笑顔にして帰らせる自信がある。あるが、足を踏み入れてもらわなければ戦うこともできない。どうすれば数多あるレストランの中から自分の店を選んでもらえるか。そんなことばかり考え続けて25年間、店を流行らせてきた。恋人どうしで来てくれたカップル客が結婚し、子ども連れで来てくれるようになり、その子が大人になって友達や彼氏彼女を連れてくる。
「京都の観光名所はほら、修学旅行で来る人多いやろ。修学旅行で来て感激した場所に今度は恋人と来るとか、新婚旅行で来るとかして、ほんで家族旅行で来て、フルムーンで来て、とかしてる人多いで、絶対。それぐらい何回も引き寄せられるもんが、あるな。さすがは京都や」
いやいや、君の店も、さすがやで。小百合はマネージメントにとても秀でている。彼女の姉もそうだ。いくつもの会社や店をやり繰りしていたお父さんの血を、娘二人は正しく引いている。

私はといえば、このように誰かを連れて二条城に来ることがとても多いのだが、ガイドはしない。一緒になってほほぉーと観光する。二条城に入って、歩いて、御殿や庭を見て、話すことは人によって全然違う。用件があってきた人とはその用件の話をするが、そうでなかったら、流れに任せて話題もさまざまだ。何に価値を見出すか、それは人によってまるで違うのが、興味深い。国宝の御殿の中を歩くだけでほぼ通過してしまうが、梅や桜の枝ぶりには見入ったり。ふすま絵には関心を示さず、柱の瑕をいちいち注視する人とか。同じ史跡に身を置いても、これほど人の反応とその時の心持ちと話すことが変わるのかと思うと、当たり前のこととはいえ、面白くも、少し切ない。
何度訪れたとしても、その時点の二条城は、時間と空間をも含めて考えると、唯一無二であるのだ。