私たちは出入りを許された存在 ― 2007/04/10 18:45:02
エリナー・クライマー 文
ロバート・クァッケンブッシュ 絵
阿部公子 訳
こぐま社(1999年)
ついでだからもう一冊、お気に入りの猫の絵本を。
ホレイショはおじさん猫。その顔はいつもしかめっ面に見える。
好きでしかめっ面をしているわけではなくて、そういう顔なんだが、実際ホレイショは、抱っこされたり撫で撫でされたりしてもちっとも嬉しくなくて、可愛がられるよりも「そんけいをこめて、あつかってほしいと思っていたのです。」
ホレイショはケイシーさんの家に住んでいる。お決まりの場所でくつろぎ、お決まりの場所で食事をし、お決まりの場所で眠る。しかし、親切なケイシーさんは子犬を拾う。お隣のウサギを預かる。けがをした鳩を助けて手当てをし、治るまで世話をする。おまけに近所の子どもたちはしょっちゅう出入りをする。
自分だけに保障されているはずのお決まりの場所が侵食されていく。居場所がないばかりか、無遠慮な子どもの手が身体を逆撫でしてくれる。ホレイショはとうとう、「もううんざりだと思いました。」
ホレイショは家を出る。やがて腹が減るが、思うように食べ物が手に入らない。困っているところへ2匹の子猫に出会う。捨て猫らしい子猫たちはホレイショを頼ってついてくる。さらに困ったホレイショ。どうにかしなくてはと街をうろつくうちに――。
終始しかめっ面のホレイショが、ちょっぴり寛大になって、最後、ニンマリと笑みを浮かべる。その笑みは「ま、妥協も必要ってことだな」とでもいわんばかりの、波乱含みの半生を送ってきた壮年期の企業人といった感じで、妙に面白い。
可愛がられるのはまっぴら、他の生き物(人間を含む)に対して無視もしくは蔑視を決め込んでいたけれど、ちょっとした旅をして、「しょうがねえ、可愛がられてやるか」「おまえらの出入りを許してやろう」という気分になった。可愛げのない猫のもつ、飼い猫ゆえの譲歩の末の愛嬌。とっぴな物語でもなんでもないのに、その視点のユニークさで読者を惹きつける。リノリウム版画という技法で創られた絵は、しっとりと温かい。
猫の縄張りは広くなく、縄張りを越えて遠くには行かない。飼い猫の場合、住む家(=縄張り)から遠く離れて出かけるという習性はない。また完全室内飼いにしていれば、その家が行動範囲のすべてになり、戸外への興味は示さなくなる代わりに、家が縄張りだという意識は強くなる。――ということが、最近買った『ねこのお医者さん』だったか『ネコと暮らせば――下町獣医の育猫手帳』だったかに書いてあった。
さらに、これらどちらの本だったか忘れたが、飼い猫にとってその家の住人は、どうやら受け入れるしかなさそうだとしかたなく縄張りに出入りすることを許された生き物に過ぎない、とも書いてあった。
これらのくだりを読んだとき、私はこのホレイショを思い出し、次いで我が愛猫をじっと見た。
「私たちって、おみゃーの縄張りへの出入りを許された希少な存在なのだニャ」
※ねこネタが増えたので、「ねこ」カテゴリも作りました。
コメント
_ mukamuka72002 ― 2007/04/10 20:07:53
_ トゥーサ・ヴァッキーノ ― 2007/04/11 06:26:15
家から仕事場、その周辺とスーパー。
見上げればずーっと宇宙まで続いている空があるのに、ボクは50センチもジャンプしません。
ボクの旅は、せいぜい散歩でおしまいなのです。
ののののの…
_ ちょーこ ― 2007/04/11 09:15:06
「素直に書くと」ってどういう意味さっ素直に書いてないと琴線に触れないって? 素直に書いてないやつってどれなのよっ……とからんでみる。ウィーーーッ
どうもありがとう。内気なお子さんたちと、お目にかかりたいですね、ぜひ。
ヴァッキーさん
そ、人間の縄張りも、猫とどっこいどっこいさ。
_ コマンタ ― 2007/04/11 11:39:23
_ 百吉 ― 2007/04/11 13:14:36
うちの猫も人間の年齢にするとオッサンなので、あまり子供扱いはしないようにしています。
だからたまに「百吉さん、ご飯召し上がりますか?」と敬語で話しかけたりしています(だいたいは「ももち、ごはん~」ですが)。
本当はペットに食事を与えるのは「やる」というのが正しい日本語なのだそうですが、気持ち的には「差し上げて」いるのに近いです。
でも尊重しているだけで、上に見ているわけではないので「愛情の押し売り」と称してハグを毎日義務づけています。
その際、ももちは大人しくじっとこらえています。
愛されなかった幼少体験から、甘え下手になってしまったももち。甘えたい時にどうして良いかわからなかったらしく、愛情の押し売りを始めてからやっと自分から甘えてくるようになりました。
コマンタさんの説を読んで納得。母として認識されたのかな。
ダーリンとももちは「男のつきあい」みたいで、完全に同居人という感じです。
_ ちょーこ ― 2007/04/11 19:10:28
その話は知りませんでした。猫と犬はずいぶん違いますよね。
昨日、よく見る野良猫がおなかを大きくしていました。産む場所を探しているのかな? 恋の季節、子育ての季節。
百吉さん、
ももちは辛い幼少時を過ごした猫だったのですか? 百吉さんカップルと過ごす今はきっと幸せですよ。きっと「ま、可愛がられるのもいいもんだぜ」と思っているに違いありません。
今夜はこれまで、では倒れますバッタンキュー。
うちの子がなー、もーちょっと社交的で、解放的だったら蝶子さんファミリーお呼びして楽しくできるのになー。鍛えます。