Elle a quatorze ans en ce moment et aura quinze ans en février.2011/01/03 23:49:39

『14歳の心理学』
香山リカ著
中経の文庫(中経出版/2006年)


年が明ければ一つ歳をとる。毎年毎年毎年毎年、経ていることなのに感慨深くなってしまうのはやはり子どもの成長が早いせいだろう。いつの間にこんなに大人びてしまったのだろうか我が娘は、と思うようなことがよくあると思ったら、彼女は来月15歳になるのであった。元日、学問のご利益で有名な天満宮へ祈願に出かけ、絵馬に願いと名前と年齢を書いたが、こうしたことの慣わしで、歳は数えで書く。すると、「16歳」である。筆に墨を含ませ「十六歳」と書くのを見守りながら、そんなに大きくなったのねとため息をついた。あっという間に、私が自分の親にしてきたように、何も明かしてくれなくなり、どこにも一緒に出かけなくなり、私のことはほっといてよ、が口癖になるのであろう。
「なるのであろう」と述べたように、ウチの場合、いまのところ派手な反抗期を経験していない。もちろん、口答えはするしエラそうな口を叩くし、時にはだんまり決め込んでムスッとしっぱなしということもしょっちゅうだけれども、娘はなんだかんだいって怒鳴ったりしないし、ものを投げたりしないし。過去に何度かキツく叱ったこともあるけれど、それが尾を引いたこともないし。キツく叱るといっても私の叱りかたも派手に大声出すとかいう種類のもんではないので、娘のほうも大声で応酬するということはなかった。たぶん、男親がいないせいで、「もう嫌よ、こんな家!」みたいな状態には発展しにくいのだ。
しかし、本書によると、最近「思春期の反抗期」なんてものが消滅しつつあるらしいことが明らかになっているという。昨今の傾向として、親子はとても仲良しだそうである。そして仲良しなまま、小中高と経過して大人になっていく。親子双方にとって非常にしんどい思春期、反抗期が、波風立たないまま、訪れないまましゅっと過ぎるのは、精神的には楽かもしれない。が、香山リカ氏は本書の中で、専門家の言を引いて「(自我の目覚め、自立心の芽生えである)反抗期を通過せずに十代を終えてしまうと、親への依存心が残ったままの幼稚な大人となってしまう。よくない傾向である」ことに言及している。実は私も、ウチのさなぎのその点が少し心配だ。反抗期の到来をわりと覚悟していたのだけれど、今のとこ無いに等しい。もっとぶつかってくれてもいいと思う。もちろん、まだ来ていないだけかもしれない、とも思う。ま、とにかく、本書によれば、たいした反抗期を経験していない家庭がすこぶる多いということである。
本書『14歳の心理学』は、悩める14歳のための本では全然なくて、思春期、いわゆる12、3歳から長めにみてハタチまで、の子どもを抱える親のための本である。平易な言葉と文章で読みやすく書かれているようでいて、実は専門的な言説がいっぱいで、意外なほどわかりにくい。意外なほど、というのは、青少年がかかわった事件や社会問題などに関してよくこの著者の寄稿文を読むが、概してわかりやすく的確だと思わせるものが多いと記憶していたからである。べつに彼女がわかりにくく書いているわけではなく、私が思うにこれは編集の失敗ではないか。随所に4コマ漫画を配し、重要な箇所は太ゴシック系書体で組み、キーワードにはピンクでマーキングするという方法は、読者の便を図ったつもりかもしれないが、タテ組明朝体を基本にした文庫本では視覚的効果は逆に作用してしまい、かえって煩雑に映るという結果を招いている。残念である。
冒頭の例に挙げられているのが、殺人あるいは殺人未遂など事件を起こした高校生の心理状態の分析で、著者は、これらがけっして特別なケースではなく、現代社会においては誰でもが陥る可能性があるのだ、というところに論を導きたいようである。その後に続くいくつかの章においても、「特異な症例」が多く紹介され、いずれも特異ではなく、どんないい子や真面目な子にも発生しうる状況だ、といっているように読める。
たしかにそうかもしれないが、漫画や現代アート、流行の小説などを引用して精神病理と関連づける論の展開は、スリリングであるいっぽう、読み手が自分のこととして引き寄せられるまでに若干のタイムラグがあって、それがちょっと辛い。先生のおっしゃりたいこと、わかるような気がするんですけど、でもたとえがちょっと突飛な感じでとっつきにくんですの、とでもいえばいいだろうか。
けっきょくは、子どもの振る舞いや言葉遣いに注意を払いつつ、「心をオープンにして」何があっても受けとめる、という覚悟が必要である、ということを述べているだけなんだけれども。
去年、娘の誕生日に贈った『14歳の君へ』という、亡き池田さんの本は、当の本人よりは私が読んでじっくり考えたほうがいいような内容であった。その本は、装幀はシンプル、衒いのない誌面デザインで、とても読みやすかった。
趣旨が違うので比べてはいけないが、書名にしてもキーワードとして「14歳」を使えばそれなりの読者層を拾えるとして安易にタイトルを付けたようにしか思えず、その点も、香山リカ氏のこの本は残念な気がするのである。