Vous aimez le Chanel ?2011/01/11 02:18:27

『シャネルの警告 永遠のスタイル』
渡辺みどり著
講談社(2001年)


所用があってここ数日、ガブリエル・シャネルの伝記本を山のように読んだ。ホントに日本人ってシャネルが好きなんだね。よくまあ、こんだけあるわねっていうくらい、シャネルの本はたくさん出ている。もちろん、シャネル好きは世界中にいる。日本で出版されているシャネルの伝記も多くは翻訳物である。どこの国でもガブリエルに憧れる人々はある種の層を成しているのだろう。
なかには本書のように日本人が手がけたものもたくさんある。シャネル個人の伝記としていちばんよくできていると思えたのは山口昌子さんの『シャネルの真実』であった。これが企業シャネルあるいはブランドとしてのシャネルを語る本になるとずいぶん様相が変わってくるので、個人伝記本とは比較できない。正直いうと、企業グループとしてのシャネルを分析した本のほうが、ガブリエルの生涯を描いたものより何十倍も面白い。とはいえ、ガブリエルことココの生涯も、上手に書いてくださってれば凡人には十分に面白い。
冒頭に掲げた本書『シャネルの警告……』は、十分に面白いはずのココの生涯をまったくつまらなく読ませるという点で群を抜いている。著者の、本書制作の目的はいったいなんなんだろう? いくらページをめくっても、シャネルがなにがしかの警告をしているようには読めない。シャネル語録は嫌というほど引用されているが、それは警告というくくりかたをされるような意味の言葉ではない。「警告」と並んで「永遠のスタイル」がタイトルとして掲げられているのも理解に苦しむ。シャネルが生んだのはモードではなくスタイルだ、というのはどの伝記を読んでも食傷気味になるくらい書いてあるが、どの本も、シャネルがいかにしてその「スタイル」を築いたかに言及してある。しかし本書に限っていえば、そうしたことにはあまり触れられず、いやもしかして、触れているけれど私の目に留まらなかっただけかもしれない。言い訳じゃないけど、ものすごく手早くピャーと読んだので、よほど印象的な書きっぷりでないと全然心に残らないのだ。
いっとくがほかの伝記本も同じようにピャーと読んだんだぞ。でも、ううむなるほど、とか、へええシャネルって素敵じゃん、とか、思わせてくれる何かが読後にあるのにさ、本書にはなかった。
著者の渡辺さんは皇室番組などを手がけたこともあるとのことで、本書の後半ではさりげなーくシャネルのバッグを手にもつ美智子皇后や雅子妃殿下の写真などを挿しながら、皇室のエレガンスにも言及している。興醒めするなあ、と感じたのはなぜだろうか。私はべつに皇室嫌いでもなんでもない。この国の政治が阿呆なのは皇室の存在が確固としてあるせいなのか、それとも政治が阿呆だから皇室が存続せざるを得ないのか、どっちだか知らんけど、とりあえず、いまんとこ、皇室なしにこの国の外交は成立しないというていたらくなので、皇室メンバーさまがたにはフル回転してもらいましょう、という立場である。
それはそれとして、たぶん興醒めしたほんとうの理由は、渡辺さんがご本人自身のエピソードも織り交ぜながら書いているせいである。「私の経験からすると」みたいなくだりが何度か出てくるが、この本を手に取る人は、渡辺さんのエピソードにはたぶん興味がないし、皇室メンバーがシャネルを愛用することにも興味がない。貧困家庭の出身であるシャネルの生涯を、彼女の残した言葉の数々を軸にして、クチュリエとしてのサクセスストーリーとして読みたいと思ってページをめくってみるはず。
ま、とりあえず、シャネルの伝記だと思って読み始めたのがマズかった。渡辺さんの考察メモ、程度の認識で読めばよかったのだ。でもさあ、立派な装幀だしいぃ。

映画『ココ アヴァン シャネル』ってヒットしたの?