放課後の教室で ― 2007/05/16 20:46:13
夏季大会の予選が終わって、体育系クラブの練習風景はどことなくのんびりムードだ。どの部も、県大会にも進めなかった。でも、弱小チームにもストーリーはあるんだからね。ミチは胸中で独り言をこぼしながら、敗れた試合で憧れの先輩が見せた涙を思い浮かべた。思い浮かべて、また泣きそうになった。校庭から、ファイトォー、ダァーッシュ、と掛け声が響く。放課後の誰もいない教室で、ミチはぼーっと時間を過ごしていた。
「おい、ミチ!」
クラスメートのトシだ。これ、見ろよと、同時プリントサービスでもらえるアルバムが、どさっとミチの前に置かれた。トシは鞄も置いて、一度廊下のほうをうかがいに行って、また戻ってきて言った。
「なかなかの出来映えなんだぜ」
トシに促されてアルバムを開くと、そこにはミチの憧れの先輩の雄姿がいくつも挟んであった。
「すごいじゃない。よく撮れたね。プロ並みじゃん、もしかして」
ミチは素直に感心して写真を褒めた。先輩はバスケ部のエースだった。写真は一回戦の試合を撮ったらしい。シュートの瞬間がいくつもある。ドリブルで走る姿にも、スピード感があふれている。楽に勝った試合だった。先輩にも余裕の表情が見える。
それにしても、いい写真だ。被写体が先輩だからではない。バスケの試合の臨場感がすごく伝わってくる。プロ並みというのは、お世辞ではない。
「その写真、やるよ」
「どうして」
「どうしてって……そいつのこと、好きなんだろ。まさか誰も知らないって思ってないだろうな。いつ告白するんでしょうねミチさんはって、みな噂してるぜ」
「うそ」
ミチは顔が真っ赤になるのを感じた。屈辱、というほどではないけど、恥ずかしかったし、なんだか少し悔しかった。
「勇気出して、告白しろよ。それ、お守り代わり。見てるとさ、勇気百倍って感じになるだろ?」
お守りだなんて。ミチはぷっと吹き出した。三年生の最後の試合から三日後、ミチは先輩に思い切って気持ちを打ち明けたのだった。けれど、玉砕。先輩には他校に彼女がいた。
「だから、もう、いいんだよ」
「そうなのか」
トシは、我がことのようにがっくりして、じゃ、こんな写真もう要らないんだな、とぽつっと言った。
「そんなこと、ないよ。そうだ、展示しなよ、廊下とかさ。もう少し引き伸ばすと迫力出るかもよ。あたし、写真部の先生に相談したげる」
いや、そんな、そこまでは、と遠慮するトシを真っ直ぐ見て、ミチは、トシの写真のおかげでふっきれたよと言った。
「ありがとね」
「……うん」
校庭から、練習の終わる気配がしていた。
同時に人物名も変えました。
お読みくださったみなさんに、御礼申し上げます。