adieu A 1/2 ― 2009/05/27 12:58:36
やがて彼は中学生になり、制服を着て我が家の前の道を、ウチの娘たち小学生とは反対の方向へ、毎朝歩くようになった。入学当初は、私を見かけると、首を前へ突き出して、ざいまっす(おはようございます、の後半だけが聞こえる)といった。けれど、だんだんそういう年頃になるのか、友達と連れだって登校するのをその後も見かけたが、挨拶しなくなった。
挨拶しなくなったのが先か、それともこちらが先だったかもう思い出せない――こちら、というのは、卓也君が頭をバンダナでくるんで登校するようになったことだ。中学校に制帽はなく、帽子やサンバイザー、ターバンの類は禁止されていると聞いていた。だから卓也君の姿は結構目立った。いちびっているようにも悪ぶっているようにも見えないし。しかし、あるとき彼を比較的至近距離で見てはじめてわかった。脱毛症だったのだ。
うなじや耳のそばにもまるで髪の毛がなく、地肌だけがバンダナに隠れ切らずに見えている。正面から顔が見えてわかったが、眉も睫毛も抜けていた。こうなると、人相も異なって見える。
卓也君はバンダナ姿のまま中学三年まで通学していたと思う。どの高校に進学したかは聞いていない。卓也君が卒業してから、ウチの娘も中学生になった。
コメント
_ おさか ― 2009/05/27 16:04:30
_ midi ― 2009/05/27 22:22:44
笑いを取る方向で進めております♪
早く先を書いてほしいような書いてほしくないような(汗