Un amour éternel.2012/03/10 23:11:02

《毎日、私をおそってくる死の恐れを克服する時は
 私は命の限りの心をしづめて
 芸術へのあこがれを見いだすのだった》

「しはんぜくち」ではなくて筑前橋という橋の名がひらがなで書いてあるだけである。

《人の世に生まれいでた時の感動が
 私の人生を新しい創造のあらしをもって再生するのだった》

橋を渡り過ぎると美術館のエントランスが見えてくる。

《わたしは生きてゆくことに
 深く打たれ、心打たれ》

展示作品は、ごく一部、撮影可能だった。

《私は死の憂鬱を乗り越えて》

シンデレラが中から降りてきそうなかぼちゃ。

《私は生きたい、心の限りも
 芸術にかがやいた火をつけて
 命の限り、無限の生と死のかがやきをもって
 200年も500年も生きながらえて
 平和と人間愛の行き着く所への不滅の志をもって
 命の限り、たたかっていきたい》

作家自身による自作品へのらくがき。作家に、似ている。200年も500年も、生きながらえてやるわよという決意が見えるらくがき。

《そして、地球の人々に告ぐ
 未来は原爆や戦争をやめて
 かがやいた命を
 永遠の永遠の永遠に
 私の精魂込めた芸術をぜひ見てほしい》

地球の人々に告ぐ、なんてメッセージはさ、60年画業を続けている人だからこそいえる台詞だよね。インタビューの中で「私はウォーホルやピカソを超えたいの」と言っていた。何をもって超えるというのかは時代が決めていくだろうけれど、10代、20代の時と同じエネルギーで80代の今も愛と死と生をテーマに描き続けることじたい稀有である。地球の人々に告ぐ。彼女にしか言えないよ。

《あなたたちと一緒に宇宙にむかって
 心から人間讃美をうたい上げよう》


《 》内は、草間彌生『永遠の永遠の永遠』から抜粋。
国立国際美術館で現在開催中の展覧会「草間彌生『永遠の永遠の永遠』」に、作家が寄せた詩である。会場には他にも、飾らない言葉を連ねた心を打つ詩が掲示されていた。

この展覧会はよくある「回顧展」などではなく、ここ7、8年、つまり最新の創作活動を紹介するものであるということが重要だ。しかも展示されているのはこの7、8年に制作された作品のうちの、半分にも満たないはずだ。とにかく膨大な数の巨大な作品群を作り続けているのである。
人生まだまだこれからだぞ、と観覧者の多くが思ったに違いない。
なんでこの絵が星なの、どこがどう星なのと、星と題されたタブローの前で連れの男性に言い募っている女性がいたが、この際そんなことはどうでもいいのである。80歳でその絵を描いたというエネルギーを、アンタありがたく頂戴しなさい。
私がとりわけ好きだったのは最新のポートレート3点である。まるで娘と私と母の顔のようであったからである(笑)。

国立国際美術館の後は、埼玉県立近代美術館、松本市美術館、新潟市美術館を巡回する。近くにお住まいのかたも、事情が許す遠方のかたも、ぜひ鑑賞しに行かれたし。

帰りに筑前橋から見た、大阪の街。この風景を見て上田正樹の『悲しい色やね』しか頭に浮かばない我が発想と記憶の貧困を嘆きながら、それでも、今日も生きていることの幸せを噛みしめたのであった。
晩ご飯は美術館にほど近いピッツェリア・ラ・ポルタで。女将は親友である。