ナイスショット【中】 ― 2007/05/16 20:34:44
知子も例外じゃない。
「これなんかさ、決定的瞬間って感じだろ」
得意げに、写真一枚一枚を解説する正利が最後に指し示したのは、ホイッスルが鳴った瞬間の、天を仰ぐ栗山先輩の横顔。予選での敗退が決まった瞬間。
美由紀と知子が応援に行った2回戦、チームは危なげなく勝利を収めたが、正利が撮影に行ったのは強豪とぶつかった3回戦だった。その日、美由紀は用事で行けなかったが、
「知子は、来てたぜ」
知子は見ていたんだ、悔し涙の栗山先輩。
「しかも、体育館の外でも待ってたぞ」
ぐぐ。でも、正利はなんでそれを言うんだろう。女の友情に水差す気はないっていうけど、十分差してるってば。
「俺は男の友情を貫きたいんだよ」
今度は男ヴァージョンかよっ。
「知子のことが好きでしょうがないのに、いつでもコクれる場所にいるのに、なんにもいえないバカが親友なもんでね」
あ。
それは孝司(たかし)のことだ。孝司は知子と同じ小学校出身で、入学以来同じクラスの正利と仲がいい。正利は科学部だけど、孝司は、文芸部に入った。そうだ、今思えば、まるで知子を追いかけるように。
孝司も、勢いよくたくさんの物語を書く。よく思いつくなあと感心する。知子の書くものとは違う意味で、面白い。小坂先生が知子と孝司の小学校では特別な作文授業があったのか、なんて目を丸くしていた。孝司は、文芸部では知子へのライバル意識むき出しにして、今度の部誌に投稿するもの書いたか、次のテーマは何にした、とかさかんに話しかけてくる。
はっきり言って、知子は嫌がっている。
正利が撮った栗山先輩の写真を眺めて、美由紀は大きなため息をついた。
ほんとにカッコいいなあ……素敵だなあ。
「だからさ、友情に篤い俺としちゃ、知子の気持ちをこれ以上栗山さんに向けないために、ここは美由紀さまに猛アタックかけてもらって、見事栗山さんのハートを射止めてもらいたいんだな。この写真は、なんつーか、お守りだな。お札代わり。または、戦う兵士への精神的差し入れ」
え、くれるの? う……嬉しいけど……そんなに煽られても、困るなあ。
美由紀と正利は、西校舎の廊下の窓から、校庭を挟んだ向こう側にある体育館を眺めていた。部活の終わる時刻になると、部員がぞろぞろと出てきて、少し離れたプレハブの部室まで歩いていく。練習後の、力の抜けた様子で、長い腕の先に大きなバッシュをぶら下げて歩いていく。美由紀は、そのわずかな時間にみせる部員たちの表情がお気に入りだった。それぞれが、今日も頑張りましたあーって、すっきりさわやかな顔をしている。こういうときの彼らの表情をうまく書けないもんだろうか。知子なら、どう書くんだろう。
コメント
_ ちょーこ ― 2007/06/15 11:34:14
_ きのめ ― 2007/06/15 12:59:37
\(⌒∇⌒)/ (^▽^)
_ おさか ― 2007/06/15 13:46:24
ろくこさーん、振られてるっ!!!おーい!>>うかつなコメント(笑