ツダとダン2007/10/23 20:02:12

 繁華街から少し外れたところに「ブラックコーヒーのうまい店」という枕詞のついた喫茶店がある。紅茶もジュースもメニューにはあるが、いちおうコーヒー専門店だ。店名はシンプルにマスターの苗字で「ツダ」。「ツダ」の狭いカウンターには、いつも常連がひしめいていた。扉を開けると煙草とコーヒーの混じった空気がむあっと吐き出される。それをくぐって「ちは」といい終わらないうちに「ブレンド」というのが私の慣わしだった。そうしてたびたび店に足を運んでいるにもかかわらず、マスターもマダムも私を覚えてくれなかった。ブレンドコーヒーが運ばれてくると必ず「お客さん、お砂糖もミルクもお好みで入れてくださっていいっすが、最初のひとくちだけでもブラックで味わってくださいな」とおっしゃるのである。初めての客に必ずいう台詞なのだが、私は行くたびにそういわれて、そんなに印象薄いのかなとしょんぼりしたものだった。そういえばあの頃毎月髪型と髪の色を変えていたから無理もない、かもしれなかった。カウンターは常連が占拠していたとはいえ、わずかな数のテーブル席では物見遊山の客の出入りがひっきりなしであった。よほど毎日通わないと常連と認知してはもらえなかったのだろう。
 もうひとつ行きつけの店があったが、頻度は「ツダ」と変わらないけどそこのマスターは私の顔を見ると「お、いらっしゃい。今日もモカ?」と訊いてくれるハンサムダンディであった。私が入り浸っていた頃は「DAN」といったが、あるとき改装して「暖」になっていた。ああ、ダンはこのダンの意味だったのか、マスターが「団さん」てわけじゃなかったのね。でも、小さな変化だったけどどうも「暖」は違うような気がして、改装後のその店の扉を一度も開けたことがないのである。

コメント

_ ヴァッキーノ ― 2007/10/23 20:54:08

これが3つの中ではなんだかすんなり流れてるように思いますけど、どうでしょう。
とか偉そうなこと言いながら、ボクは今回、いいのかなぁっていうタイトルで投稿しちゃいました(汗汗)
やっぱ、珈琲と扉って言ったら、喫茶店ですよね。
今回は喫茶店ネタが多くなると思います。
設定が絞られるわけですから、あとは書き手の技量次第ってことですね。
前回の「箱」とは別の意味で難しいです。

_ きのめ ― 2007/10/23 21:03:03

うーむ、ひとつ書くのに10日も頭を悩ますのに、ぱたぱたとこんなにたくさん。しかも、珈琲書き終わって、旨いものまで書いた人が、コメントを書いてる。わはは。こっちも喫茶店ねただい!

_ midi ― 2007/10/24 07:37:13

おはようございまする。
ヴァッキーさん、そう思う? ツダについてもダンについても描ききれてないんで、だからどやねんって感じでしょ。

きのめさん、珈琲の香りに扉っていったら、もうある世代以上の人間には喫茶店の想い出、しかありませんよ。そこを狙ったんですか? じゃ、あえて外さないと目立たないかなあ。と、同じこと考える投稿者がワンサカいそうですがね。

昨日、昼休みに銀行いったりと雑用をしてたらランチタイムを外しちゃってしょうがないので昔ながらの喫茶店入ってたまたま「雨の物語」が聞こえてきたんですよね。そこから書き始めました。だだだだだっと。

_ mukamuka72002 ― 2007/10/24 13:29:31

窓の外は雨(780文字)
>イルカという名の女性フォークシンガーが歌って大ヒットした
 イルカを知らない人が……いやいるか? いや洒落じゃありませんよ。僕なら、イルカが歌って大ヒットした、と何も考えずに書きますが、たしかに知らない人には、え? となるかもしれませんね。

家庭教師(1054文字)
>ピンク映画とはまったく無縁の清廉潔白なサラリーマン
 ピンク映画観ても清廉潔白な人がここにいますがね!
コメントに反応してしまった。
扉は何処にと思いましたが、最後に出てきましたね(笑)。
でも質問、蝶子さんの家は昔風なんでしょ? 引き戸じゃありませんか?

ツダとダン(734文字)
クソッ、予想が外れた。
 常連だったその店の名は「ダン」ですが、昔風に右から読ませて「ンダ」でも「ン」に汚れがついて「ツ」に見えていた、だから「私」はその店を「ツダ」と思っていた。
 別の街にうつり住んだ「私」は同郷の男性と恋愛する、で、互いにその店を知っていたのだが店名が違うので同じ様な店が二軒あったのだと思う。
 その男性とは悲恋で別れ、「私」は久しぶりに故郷へ帰る、そしてその店に行き、看板を見てようやく自分が間違えていたことに気づく、「ツダ」ではなく「ダン」だったと。

うーん、「窓の外は雨」が一番いいかなー?

_ midi ― 2007/10/24 18:58:47

mukaさん品評ありがとう。
どれもボツだな。ほかのことを思いついたよ。
明日(ですよね、締め切り?)、間に合いますように。
仕事を首尾よく終えたら、投稿します。

この3本は私の経験と事実に基づいていますが、「佳子さん」や店名は仮名です。

_ コマンタ ― 2007/10/25 00:42:37

中学を卒業するとき、将来行われるであろうクラス会の幹事に男子としてぼくが選ばれました(押しつけられた?)。女子はMさんという、いかにも水商売が似合いそうな華やかななかに暗さのあるクラスメートで、ほのかな恋愛のうわさがありました。その彼女がガロのファンで、デビューしてからの3曲の歌詞がみな「き」で始まっている、なんてことをぼくに教えてくれました。♪きみとよく~ と、♪きみの~誕生日~ と、あとなんだったかとあとで思い浮かびますが、なつかしいグループですね。
「したがき」3つのなかでは、家庭教師がぼくは好きかなあ。「ツダとダン」も好きなんですけど。ちょっと「枕詞」の使い方がゆるい感じが……。ぼくなら、

 「ブラックコーヒーのうまい店」という枕詞のついた喫茶店がある。

というところは、

 「うまいブラック」の枕詞になっている店がある。

みたいにしたかも(笑)。

_ midi ― 2007/10/25 09:54:56

おはようございますー。
「枕詞」の使い方が間違っているんですよね。ここはごく普通に「ブラックコーヒーのうまい店」というキャッチフレーズのついた喫茶店がある」とすればよかったんですよね。だって本当にそう看板に書いてあるんですから。ご指摘ありがとうございます。

『学生街の喫茶店』♪きっみとよっくこっのみせにきたものさーわっけもなっく
『君の誕生日』♪きみのぉおおーたんじょうびぃいいーーーふたりぃいいー
『ロマンス』♪きーみーわすれないでいーてーわかいあいのひーをー

ほんとだ。ぜんぶ「き」。

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