朝摘み苺が食べたくて ― 2007/06/05 08:58:23

『14ひきのあさごはん』
いわむらかずお 文・絵
童心社(初版第1刷1983年、第61刷1996年)
いわむらかずおさんの絵本の存在は全然知らなかった。14ひきのシリーズは、子どもが生まれなければ、一生手にしなかったかもしれないと思う。繊細な水彩画で、好みの絵なんだが、あくまで乳幼児への語り聞かせを意識したと思われるこのシリーズを、エエ歳した独身女がへへへふふふと眺めてニヤついているのはやはり不健康だろう。あ、失礼、もしかしてそういう女性もおられるかもしれない。妙齢のご婦人が絵本をめくりながら微笑んでおられるというのは、少し想像しにくい、と言い直しておこう。
ねずみキャラクターというのはいつの世も子どもに愛される。ミッキーマウスも、『トムとジェリー』のジェリーも、私だって大好きだ。
しかしそれとこれとは話は別なのよという事情が我が家にはあって、それは、屋根裏床下を我がもの顔で走り回り夜な夜な台所へ出てきて悪さをするネズミたちの存在だった。
とにかく、天井の板があまりいいものでないせいか、奴らが走り回るとうるさくてしょうがない。あちこちありすぎるほどある建具はきっちりと閉めているはずなのだが、みなが寝静まった頃、餌場に忍び込む。私は奴らがたてる物音に耳ざといので、夜中必ず目が覚め、奴らが走り去るのを何度も目撃した。捕獲には至らないが、ここは危険エリアだぞと威嚇すると、しばらく出てこない。
昔、我が家では大量にネズミ退治をした。電話線など何がおいしいのか全然わからないものまでかじってダメにしてくれた。地域的にもかなり問題になっていた頃だ。今、多くの民家が建て替わり、古い木造家屋の数が少なくなって、ネズミの被害を受ける家も少なくなった。我が家はその少数派のうちの一軒だ。うちがネズミに苦しんでいると、古民家の隣家もその隣も、お向かいも同様で、あれかじられた、これを食われたと被害の自慢話に花が咲く。
本屋で14ひきのシリーズを見つけたとき、我が家の伝統的天敵であるネズミをこのように美化偶像化したメルヘンチックな絵本を我が子に与えてよいものかと、おそらくは多くのお母さん方が悩まないであろう問題で私はかなり躊躇した。しかし、いや、ここに描かれているのは山のねずみだ、町のねずみじゃない、と自問自答の末納得し、買い求めた。最初に買ったのはどれだっただろうか。とりあえず、このシリーズ、10冊持っている。
14ひきのあさごはん
14ひきのぴくにっく
14ひきのせんたく
14ひきのかぼちゃ
14ひきのひっこし
14ひきのおつきみ
14ひきのあきまつり
14ひきのやまいも
14ひきのさむいふゆ
14ひきのこもりうた
持っていないのは『14ひきのとんぼいけ』だけのようである。
14ひきのねずみたちが絵本の中でやっていることで、娘とできることは全部したように思う。池でお洗濯、たんぽぽの野原でピクニック、大きな葉っぱでお面を作って秋祭り、芋ほり、そりすべりなどなど。私と娘は「ろっくんより上手かな」「さっちゃんみたいにはできないね」なんて、ねずみの家族を我が家族のように思い浮かべたものだ。
『14ひきのあさごはん』には、子ねずみたちが野いちごを摘みにいってそれを朝ごはんにするシーンがある。それを真似たくて、苺を種から育てた。以来もう足かけ十年、毎年春から夏にかけて可愛い苺を実らせて、娘を野ねずみ気分にさせてくれている。