好きなことができる時代なんだし ― 2007/06/18 08:39:24

『せんべいざむらい』
今江祥智/作 宇野亜喜良/絵
佼成出版社(2004年)
山のように絵本のある我が家だが、お話の本はめっぽう少ない。
我が娘がまるで読もうとしないからである。
私も自分自身が児童文学を読んで育ったなどとはとてもいえないし、手始めにどれが良いやらも見当がつかないので、何を勧めてよいやらわからずじまい。で、けっきょく私自身の好みや挿絵の美しさで本を選んで、娘が読むかどうかの観点では失敗をさんざん繰り返した。
だから、まずは買わずに図書館利用一辺倒でお話の本は読み聞かせてきた。わかりやすくてさっさと結末にたどりつける、短いもの。民話系が多い。○○県伝承民話集、なんて類いは思いっきり彼女のツボにハマる。
そういうわけで娘はハリポタやエルマー、ロードオブザリング、ネシャンサーガなんつう今どきのヒット文学はなんにも知らない。
学校や自治体は「子ども読書100冊マラソン」なんてイベントを立ち上げ、読んだ数を競わせて子どもを本好きにしようと躍起だが、そういう手には見事なまでに乗らないのが我が娘だ。
てなわけで、数少ない我が家のお話の本の中から私が偏愛している本その1、『せんべいざむらい』。
今江さんの本はあまり読んだことがない。児童文学の大御所だし、幼い頃にそれとは知らずに読んだものがあるかもしれないけど、記憶にない。
いっぽう、画家・宇野亜喜良は大好きである。イロエロカワイイ少女なんかを描いて昔から人気だが、書店で「宇野亜喜良」と書かれた本を見ると低血圧ながら一気に血圧が上昇するのを感じる。手にとってページを繰ってウホウホと興奮せずにいられない。
本書は、その宇野さんの描く少年侍がしゃぶりつきたくなるくらい可愛いのである。侍の子として生まれ、武士道を歩まねばならないのだが、少年が心惹かれるのは小さな店で老夫婦が売るせんべい。そのうまさに惹かれ、せんべいを焼く主人の手さばきに惹かれ。
やがて少年は寺子屋の帰りなどに店に出入りし、せんべいを焼かせてもらうようになるが、その行為を厳格な父に知られて――。
宇野さんの描く人物は、顔の表情は豊かだけれども、ボディが描かれている場合、なんとなくからだが薄っぺらくて紙の人形みたいに思え、それがまた非現実的雰囲気を漂わす効果はあるのだが、イロエロチックな絵はオッケーでも、時代劇だとちと重みにかけるかも知れん、と感じなくもなかった。
今江さんと宇野さんのコンビの本はたくさんあって、私も本書のほかにもう1冊『オリーヴの小道で』(BL出版)を持っている。
この2冊のほか、今江さんの本は数えるほどしか読んでいないのにこんなことをいってはなんだが、ちょっと「行間でモノをいいすぎ」のように思う。時間の経過や、台詞の向こう側の人物の気持ちの揺れ動きなど、ウチの子のような単純な脳ミソでは感じ取れきれない。大人でも難しいぞ、きっと。
『せんべいざむらい』の設定は面白い。武士の子は武士だった時代の、少年の可愛らしい抵抗。そして何よりせんべい屋主人と心のかようさまは、ほのぼのと胸をあたたかくさせてくれる。
うーんしかし、その、「しみじみ」「ほのぼの」は、がさつざかりの小学校低学年の心にどれほどしみていくのだろう。
本書は佼成出版社が出している「おはなしわくわくシリーズ」のひとつで、小学校1、2年生からが対象となっている。文字の大きさも、思いっきり低学年向け(でかい)。
感受性が豊かで、この世界を堪能できる子も、そりゃいるんだろう。いるんだ、きっと。
しかし、こんなに字が大きくて宇野さんの絵が美しいのに自分では読もうとしない、ワカラズヤの娘に読み聞かせたところ、最後に彼女は言った。
「それで? ……え、それでおしまい?」
というわけで、ウチでは失敗の巻。