adieu B 2/2 ― 2009/05/28 12:10:29
ところが、もっと若いブランジュリ・カトの加藤さんが急死した。夫の落ち込みは大変なものだった。パン・ド・カンパーニュ、あれだけはヤツが焼いてたんだよ、ほかのは息子が頑張ってたけどさ、カンパーニュだけはさ。
それから何日か経ったある夜帰宅して開口一番、夫は、シンガポール支社長の椅子が回ってきたよ、と告げた。まあ。それで、受けるの? ああ。行こうよ。いいだろ、ケアマネの仕事、休眠にしても。と夫が言い終わらないうちに佐知子はええ行くわ、と答えていた。この場所から出発したい、私はたぶんそう望んでいたんだわ、と思ったのだ。
シンガポールにだってうまいパン屋、あるよな。夫は出会った頃のお茶目な表情でいった。まあ、やっぱり。やっぱりって何だよ。何でもないわ、おいしいパン屋さん、見つけましょうね。