今日は3月31日なんですね。お疲れさん、あたし。2010/03/31 20:13:12

『アカペラ』
山本文緒著
新潮社(2008年)


今日で今年度が終わる。なんてしんどい一年間だったことか。いま、一年分の「ツカレ虫」がウヨウヨわらわらと何万匹も這い出して左こめかみに一斉攻撃を仕掛けている。痛たたたぁ……勘弁してよ。今日で3月は終わりだけどまだ週の真ん中なんだぞ。
それにしても3月の半ばからずっと同じ調子で頭痛に襲われる。朝から3時頃までひっきりなしの電話を捌いて、運がよければ4時までにランチ休憩が取れるけど取れなかったらしょうがない、4時から5時はしばし得意先群が静かになるので山と積み上がった自分の仕事に集中できる。……と思いきや、必ずこの時間帯に激しい頭痛がやってくる。早いと2時半か3時あたりでガンガンしてくるので、空腹と頭痛のダブルパンチでご臨終寸前になるが頭痛が勝るので食欲がそがれて食べ損ねてしまうことたびたびである。頭痛が治まらないまま貴重なマイ仕事タイムに突入するも、当然のことながら効率は上がらない。そうするうち、5時半頃から7時頃になると、今度は遅がけの得意先群からどしゃ降りのにわか雨のように電話が鳴る。「今日、僕残業なんで遅くまでいますから、仕上がるの待ってますよ」とか、「あと2時間くらいでできますよね?」とかさ、夜7時過ぎてからゆってくんなよっ。アンタの残業スケジュールなんか知らないよっ。あたしはこれでも母親だっ。もう帰るっ。

今年に入ってからほとんど休みがない。休日出勤の申請がやたら多くてちょっとだけボスに睨まれているのがわかる。けど誰も代わってくれへんやん。あたし指名の仕事なんやししゃあないやん。

娘もずっと発表会の練習or部活や試合で土日を返上していたから、母親がウチを空けっ放しでも気にしない。もうそういう心配はしなくてもよくなったけど、せっかくしなくてもよくなったんだけど、休日返上で働き続けるなんて、今度はこっちの体力がもたない。

今年はダリ本(モーほんとタイヘンだった)、町内会役員(モーほんとタイヘンだった)、得意先に逮捕者が出た騒動(ざまみろなんだけどおかげで下請のウチらは大打撃)、そのせいで勤務先潰れそう騒動(マジよ明日は職場ないかもしれないよ)があって、とにかく崖っぷちでやること多くてへろへろに疲弊したのに、なんであたしの手もとにはこんなに何にもないの?状態で(笑)、さらに身内に一度、友人関係に二度、ご近所に二度、不幸があって大きな喪失感が追い討ちをかけた。さらには娘の担任をめぐってなんのかの、部活のコーチをめぐってなんのかの、もうそんなの学校で解決してよねったくもうっ……て感じで何もかも放り出していたのでクリスマスツリーを片付けたのがつい三日前だ(笑)。

頭を無にしなければ。仕事の資料を返却しに行った図書館で「今年度ベストリーディング図書」という特集展示がされていた。一見、意味がわからなかったが、どうやら最も貸し出し数が多かった図書を集めて展示していますという意味らしいことがわかって、水色の表紙の『アカペラ』を迷わず取って借りて帰った。

山本文緒さんはずいぶん前に何かを読んだ。何だったかわからない。30代の夫婦、あるいは男女のくっついた別れた不倫した、みたいな話だったような気がするが、ぜんぜん物語は思い出せないのに、ただただ面白かったという感想をもったことだけが記憶に残っている。ウン、とにかく面白かった。「山本文緒」の名前はしっかり覚えたが、そのあと読む機会がまるでなかった。奥付を見ると彼女はほぼ同世代である。感覚のすごく近い人だということが文章からわかる。同世代の作家で気持ちにフィットする人いないかなと探した時期があったが、けっきょく川西蘭のほかには見当たらなかった。が、とうの昔に出会っていたということではないか、山本さん!

収録作品は『アカペラ』『ソリチュード』『ネロリ』の3作品。どれもそれなりに面白い。それなりに我がことのように引き寄せて味わうことができ、感情移入でき、意外な展開が待っていて、そっかそっかよしよし、という結末に安心する。

『アカペラ』の主人公タマコは卒業を控えた中学3年生。高校には行きません、就職してじっちゃんと暮らします。そういって担任のカニータ31歳をうろたえさせる。カニータは、タマコの家庭事情を知って彼女の強さ健気さに触れ、自分がいかに甘ちゃんだったかを思い知らされて涙したりして、準主役どころなんだが、はっきり言って目障りである(笑)。登場人物としてはあってもいいが、カニータはタマコと交替で語り手を担うのだ。その語りが若干、いらつく。あるいは読者をイラつかせるのが書き手の意図なのか。なんだよこいつと思わせといて、純粋なタマコの語りで癒す。それを交互に出して読み手をこちょこちょ責める。

高校には行かない。ウチの娘がしょっちゅう口にする台詞だ。ハイハイ、行かなくていいです。

「高校行かへんということは、もう中学校でしか勉強しいひんってことやで」
「うん」
「さなぎの長い一生、三角形の合同とか杜甫の絶句とか水酸化ナトリウムの化学反応式とかどうでもいいことを好きなだけ時間費やして勉強するチャンスはもうこの中学で終わりってことやで」
「うん」
「いいの、それでも」
「いいよ」
「高校行ったらさ、中学のときチョイ意味不明なまま放置してた英単語の過去分詞とか、やり直すチャンスあるんやで」
「そんなん、もういいもん」
「ほんまにもうええのん。ほな、中学校で習う全単元完璧にマスターして卒業しい。もう二度と、教室で先生に間違えた問題わかるまで教えてもらうようなこと、ないねんから。わからんとこ残したまま卒業させるなウチの子は社会人になるんですからって3年になったら担任にゆうたる」
「ええー」
「とりあえず8か月分ためてる通信添削、3月中に全部提出しい。できひんかったら陸上部引退させるし。一足先に完全引退。春体もなし。総体もなし。4月から勉強オンリー。小1から中2までの総復習含む。お母さん今度カン爺先生にそういうわ」
「えええええええーーーー」

私はこういうことでは嘘はつかない。部活顧問にこの話をきっぱりした。本当に部活動から引退させますからね、先生からもちゃんと勉強するように言ってください、と詰め寄っておいた(笑)。引退なんて冗談じゃないよと真面目に受け取ったのかどうか、娘はとうとう、今日、山になっていた通信添削問題の答案をすべて仕上げてポストに投函した。おおお天晴れじゃ、えらい!(笑)

タマコは、学校に隠れて古着屋でバイトをしている。母親に放置されているせいで、手芸や料理はお手のもの。手編みのセーターやカーディガンをハイペースで仕上げてその古着屋で販売している。店長に気に入られて中学を卒業したら晴れて正社員になれそうだ。家事の半分を担ってくれる祖父とこのまま暮らせたら父も母も要らないし、十分生活していけるとタマコは思う。

高校には行きません。そんな台詞は、タマコのような中学生なら言ってもいい。ウチの子のようなあかんたれには無謀な話だ。イマドキ高校くらい出とかないと、などというつもりはない。どの高校に行こうがその中身にはたいして期待はできない。要は生徒の心の持ちかた次第で高校という箱の値打ちも変わる。難関大学に行きたいから、ハイスクールライフをエンジョイしたいから、といった理由があれば高校は有意義な場所になる。目的の異なる生徒が同じ学校に在籍するところに身を置くのも一興だと思う。でも、目的もない、面白そうにも思えないというなら無理強いはしない。しかし、では15歳の4月から、君は何をするのだ? 就職して家計を助けてくれるのか?

タマコの大好きなじっちゃんが倒れる。意識が戻らない。やがてタマコは卒業し、予定どおり古着屋の正社員となって、行き帰りに病院へ立ち寄るのが日課になる。……。

高校へ行かないという選択はありだが、どう生活するかを考えたまえ。そう思って『アカペラ』を読み終えたら娘に回そうかと思ったが、次の『ソリチュード』が中学生の親には生々しく痛い話なのでやめた。その次の『ネロリ』にいたっては、とても娘の頭では想像をふくらましてもふくらましても、理解に至らないだろう。
中学生や若者が登場し、言葉も平易で展開のテンポもいいから、中学生あたりにも読めそうに思いがちだが、人生の苦楽とか悲喜とかそういう名の色素のそこそこ染みついた手でページをめくらないと、味わえない物語ばかりだ。

ところで、今日、教職員の離任式だった。
あの西原先生と滝川先生は異動になった(!)。校長は周知のとおり定年退職である。
どことなく機嫌のいい(笑)娘と、異動教員の名を聞かされても頭痛は治らず仕事は減らず、もはや慰めはマイブログと、本書のような程よい軽さと重みですーーーっと読める小説だけの、疲れ果てた私。バランス悪いな……。
でもさ、今度の土日はお雛さん祝って温泉行こうな。※旧暦で祝うざんすよ、こちらは。

バイバイ、平成21年度。変わらず明日の朝がやってきますように。

コメント

_ 儚い預言者 ― 2010/04/02 22:03:14

 問うことの夢が果てしなく続く。終りはない。がいつもそれは最終局面であることを知らない。
 全てが総てある。その断面はいつも重層しており、複雑な局面を浮かべる。無限の様相である。単層と複層が織り交ぜられ、ただ自由な選択だけが、運命の徴となる。
 知ることと歩むことは違う。皆そうなのだ。学びには全知を目的にするが、決してたどり着けない。
そしてそれが本当の目的でないことを知るまで、「歩み」という喜びの真実が見えるのである。

 問いなさい。自分とは何かと。そして自分に与えられたギフト(才能)を開花させて、奉仕するとき、宇宙の夢が全開になるでしょう。それが宇宙の喜びであり、愛そのものになるでしょう。

_ midi ― 2010/04/04 12:05:11

新年度、始まってしまいましたよ。
娘は明日から学校、いよいよ中3です。あーあ

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