先生のアレルギー体質はハイレベル ― 2010/05/13 18:45:01
「嶋先生な、好き嫌い多いし、絶対給食のおかず、残さはるねん」
「アカンなあ。教育者にあるまじき振る舞い。でも、取り分けはったおかずはどうすんの」
「(食べたい生徒が)みんなでジャンケンして奪い合うねん」
「で、いつも勝ってるやろ」
「うん。ほぼ。そやし、給食時間充実してんねん」
「何が嫌いなん、嶋先生」
「エビ、カニ、魚……」
「給食のメインやん」
「ウチらがなあ、食べられへんで残してたりするやん、そしたらな、『お前、世界では3秒に1人、子どもが飢えのために死んでいってんねんぞ』っていわはんねん。毎回、必ず誰かにゆうたはる」
「でも、先生もやん、なあ」
「うん、それで言われた子が『先生も残したはるやないですか』っていうたらな、『お前、俺は食うたらショック死すんねんぞ』って」
「へえ? ショック死?」
「世界の子どもの飢餓の話と、自分のショック死の話はセットで毎回、あんねん」
「なんで、ショック死? エビ食べて?」
「なんか、アレルギーやって」
「ああ……甲殻類のアレルギーか。そら、やっかいやなあ」
「お医者さんに、この次食べたらショック死するかもしれませんって言われてからは絶対食べへんって決めたんやって」
「甲殻類とか蕎麦粉とかピーナッツとか、すごい極端なアレルギー反応起こして、死ぬことあるらしいしなあ」
「ほな、マジなんや、ショック死」
「そうかもな。で、魚は何がアカンの?」
「全部」
「なんで」
「骨が嫌やって」
「ただのわがままなオッサンやん」
「ウチが先生にもろた鯖とか秋刀魚の骨とってたら、ひえええって顔して『ひいいいいい、お前、信じがたいぞ、奇跡の行いやなそれ』とかいわはんねん」
「評価されてんのかな」
「たぶん」
家庭訪問の日、多方面からいろいろお話しになった嶋先生だが、「中3を受け持つのは嫌でねえ、生徒がみんな自分の背を追い越していくから、さなぎさんもまた背が伸びたみたいで、見下ろされてますわ」
たしかに嶋先生は小柄である。おまけに近頃体脂肪率が高くなってと嘆かれる。
「先生、そんなふうには見えはらへんですよ」
「隠れメタボなんですわ。ヤバイです」
「好き嫌い多いって聞いてますよ。バランスよく何でもお食べにならないと」
「でも僕はねえ、ショック死するんですよ」
「(笑)それもさなぎから聞いてます。アレルギー、きついんですか」
「なんかね、エビ食うたり、カニ食うたりするとぶつぶつ出てきたり、汗かいたりしてたんですわ。最初はなんでかわからんけどどうも食いもんらしいと思って医者に行って、アレルギーのテストしてもろたんです。そして結果出たら医者が声荒げて『絶対エビやらカニは食べたらアカン。この次食べたらショック死するかもしれませんからね』っていいよるんですよ。ひええっもう、怖いですやんそんなん。それから何があっても口にしてません」
「それはしかたないですねえ。でも、お魚も召し上がらへんとか」
「骨が嫌いなんですよ。骨を取るのが」
「(笑)けどそれはしょうがないですやん」
「なんで骨取ってまで食う必要あんねん、と思うんですわ」
「ウチの子は魚、好きですよ」
「きれいに骨始末して食べますねえ。感心してるんです。僕には真似できませんわ、ほんまに」
「すると、どうしても肉中心ですね。メタボにもなりますね」
「運命なんですわ」
その後、またしても給食の話題が出た。
昨年同じクラスだった問題児のポニー君と、縁あって再び同じクラスなのだが(笑)、ポニー君がどうしても食べられないおかずを残すといってきかないので例によって飢餓の話とショック死の話になったらしいが。
「でもな、ポニー君がしつこく、嫌や嫌やっていうから嶋先生、『お前、俺がショック死したらどうなると思う? 誰がこのクラス面倒見ると思てんの? 校長先生やぞ』って」
「え、そうなん?」
「他の教員はみんないくつも職務掛け持ちしてるし、空いてんの校長先生だけとかいうて」
「そんなことないやろ」
「ウン。そんなことないねん。ウチ言うてん。『先生、それはまず、副担任の竹下先生が代行でしょ』って」
「そしたら?」
「先生な、ウチ指差して『ハイレベル』って」
「なんやねんそれ」
「理屈で負けたり、笑いとんので自分より上行かれたら、しゅたっと指差して『ハイレベル』っていわはんのがマイブームやねん」
「(爆笑)褒めてもろたんやね」
「うん。『さなぎ。ポニーのおかず、食うたれ』って。そやし、よっしゃあ!やってん」
問題山積の世界だが、どうにかなるように回っていくさと思うのはこういうときであるのだった。