Et voilà ce que j'avais pensé depuis...2011/05/15 19:18:05

『メジルシ』
草野たき著
講談社(2008年)

中学3年生の双葉(ふたば)。卒業後は全寮制の高校に進学する。それと同時に両親は離婚することが決まっている。三人別々の暮らしが始まるのだが、双葉は取り乱さず傷つかず冷静に受け入れている。両親の離婚は、修羅場があったわけではない。母親・美樹の、大学院へ行ってじっくり勉強したいという一方的な希望に起因する。だからって、なぜ離婚までしなければならないのか皆目わからない父親・健一。けれど、健一は美樹を愛するが故に同意する。そして最後の家族旅行を提案、計画し、北海道にでかけることになった。
絵に描いたような善人だが、今よく使われる言い方をすれば「空気の読めない」父の健一。いつも冷静かつ不愉快そうな顔をしていて、双葉と目を合わそうとしない母の美樹。
双葉には手に火傷の痕があり、幼い頃に美樹の不注意から負った傷だということになっている。が、双葉は、なぜなのか自分でもわからないが、真相は別にあるとどこかで思っている。普段の美樹の態度、時折疼く自身の心の奥底……ただ、気がかりのような、不安のような、言葉にはできないもやもやした納得できない感覚を抱えたまま、双葉はそれでもつねに「大人」でいようとし、ものわかりのよい一人娘として振る舞ってきた。そのことに誇りすら感じて今まで生きてきた。だから離婚だってどうってことない。自分自身も、寮生活を通して自立し、自分の道を歩むのだから。
家族旅行なんて今さら鬱陶しいだけ、と双葉は思ったし、どうやら美樹も同様だ。健一だけが無理矢理はしゃいでいる。双葉は親友や彼氏とときどきメールを交わし合って気を紛らす。
しかし、ありきたりな観光旅行とはいえ、非日常に身を置いたことで家族は真に次のページをめくることになる。
一見よくあるよさげな家族は、実はバラバラ。かっこいい理由で離婚を認め合う進歩的なメンバーである振りをしつつ、実は自分に嘘をついたままごまかしたまま仮面をかぶり続けることに苦しんでいる。『メジルシ』が描くのは、けっこう近年使い古されたテーマ「家族」の、ある再生のかたちである。小説の中では再生には至らないが、辛い記憶の目印だったものが再出発の誓いの目印に変わろうとするさまを描いた小説であるとでもいおうか。

というと、とってもいい小説のようだけど、やはりそこはヤングアダルトに分類される作品なので、説明しすぎるというか、わかりやすすぎるというか。
昨今の、本をあまり読まない、深読みできないティーンエイジャーの傾向を汲んでいるのだろうかと思わせるほど、手取り足取りの描写ですいすいすいと読み進ませ、なんだかちょっともったいない。読み手を読解力発展途上中のティーンズと仮定するならなおさら、もっと想像力をかき立てるような表現で、迷わせたり立ち止まらせたり、悩ませたりしながら引っ張ってほしいなと思った。
「家族」はよくあるありきたりなテーマとはいえ、切り口次第で面白いものになる。本書も、目のつけどころはとてもよいと思う。そして、作家はきっと元来筆力のある人である。思うに、これは編集サイドの余計なおせっかいの「成果」ではないか。草野さん、もっとていねいに、もっとわかりやすく、こんなふうにあんなふうに書かなくちゃ、中高生は読んでくれませんよ。とかゆってないか?

娘が中一の時に『ハーフ』を借りてきて、借りてきたままいっこうに読んでいなかったので横から失敬してしゅしゅっと読んだことがある。その時も、面白いことをネタにしたなあと感心しつつよくわかるように描かれすぎているために残念な出来映えだなと感じたことを覚えている。

だが、文字どおりヤングアダルト(っていったいどのへんの子どもたち?)には受けているのだろう、順調に次々と作品を発表し、いずれの単行本も好調らしい。

『メジルシ』は図書館で偶然見かけて、表紙の飛行機が可愛いので借りてみた本だった。ずいぶん前に読んだのだが、この週末、娘と「本をもっと読めー」「読んでるやんダンスマガジン」「そりゃ本とちゃうやろ雑誌っつーの」「雑誌でも字が書いてあるやん」「その字をオメーは一字も読んでへんやろが写真ばっか見て」「ぐ」……
というような会話の挙げ句、草野たきならオメーにも読めるからその辺から始めろ、という話になって『メジルシ』を思い出したのであった。

コメント

_ ヴァッキーノ ― 2011/05/17 20:54:36

そうなんですよね、最近はなんでもわかりやすいんですよ。
人間くささ(良いようで悪い、悪いようでいて悪ぶってない)みたいな複雑さがないじゃないですか。
コイツのキャラはこうだって決まっちゃうと、
そのまんま。
映画見てても役者も同じ演技ばっかだし。
小説も単純な気がしますね。
オチがちゃんと用意されてて、それに向かって
ゲーム盤の駒をすすめてるように読むっていう感じ。
文字のジャングルを分け入って、サバイバルするっつうのが、あんまりないですね。
って言えるほど、ボクは立派じゃないんですけど(笑)

_ midi ― 2011/05/18 10:07:43

ヴァッキーノさん、おはようございます。

>文字のジャングルを分け入って、サバイバル

いいですね! 同感です。ほんとほんと、そういう経験を読者にさせてほしいもんですよね。
ミステリーや探偵もんではない分野でね。
そういうものを求めると古典や近代もんしか読むものがない。
現代に書かれたものだと小説以外のジャンル、批評や論文にしか見出せない。由々しき事態ですね。
っていうほど、小説読んでない私がゆーちゃいかんけどね(笑)
こんなの、ゆったもん勝ちさ、ヴァッキーノさん(笑)

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