Elle était juste une des petits rats...2011/08/19 16:17:40

9月初旬に、娘の通うバレエ教室の発表会がある。9月のアタマといえばまだまだ暑いが、いちおう毎年「秋のバレエコンサート」と銘打っている。まだ習い始めた小さい頃から欠かさず観にきてくださる友人(私の)がちらほらいるけれど、知らせると「ええ? 9月の初めなんて、早いのねえ今年は」とおっしゃる。かつてはいつも彼岸の頃に行われていたので、「秋の」の語がしっくりきていたが、ここ数年、教室サイドの思惑どおりに会場日程の予約ができなくなってきて、9月初旬開催が続いている。
それはともかく、もう本番まで2週間余。
「シューズがやばい」
「まじ?」
「まじ」
「困ったなあ」
「お店から電話ない?」
「ない。1足でも先にくれ、とゆーてあるから入荷したら即連絡もらえるはずなんやけど」
「入荷してへんってことやんな」
「やんな」

「やばい」というのは、「つぶれそう」という意味である。もうそろそろ履きつぶす頃なのだ。
ウチのい草ゴザになんと不似合いなサテンのトウシューズたち……といいたいところだが実はトウシューズなんつうもんは綺麗でもなければ可愛くも美しくもないのだ。数回履くと先はボロボロになる。ここに写っているのは4月以降に費やしたシューズたち。後ろのピングーの袋にも数足突っ込んであるが、いずれにせよ多くはない。ワンレッスンで履きつぶすのがプロのダンサーは当たり前とよく聞くが、もちろんわれわれはプロではないので、ワンレッスンで1足なんてことはありえないけど、バレエ教室の生徒の中にはハイペースでシューズを消化する先輩も珍しくない。ある先輩の母親が、「部屋中シューズだらけ、シューズで山ができるくらいなんよ。アンタこれ、嫁入りに持っていきなさいよって言うてんのよ」なんて嘆いていたけれど、おおげさでもなんでもない。娘の履きつぶしたシューズは一足も捨てていない。段ボール箱に突っ込んでクローゼットにほりこんであるが、その体積はけっこうなもんである。単にウチがボンビーなので、また娘もそれをよくわきまえているので、もうこれ以上どうやっても使えませんよっとくたくたボロボロになるまでシューズを使うので、消化がローペースなだけである。
手前の数足には乾燥剤が突っ込んである。
いま使用中のトウシューズ2足とソフトシューズ1足。
写真は8月初めに撮ったものなので、数回履いただけの時点だが、このように爪先はボロッ。

レッスンは年齢を重ねるほどに厳しく激しくなってきた。
シューズの傷みの加速度も倍加した。
これまで一度に買うのは多くても2、3足程度だったが、5、6足注文しておこうかといつもの専門店へ行くと、
「工場が1か月休暇をとってましてね。8月に入らんと動き始めんのです。そこからの受注生産ですから……」
なんて店主が言ったのが7月だった。なにー? 由々しき事態である。
とりあえずそのとき店に在庫品があったのでそれを買ったが、7月下旬から履き始めたシューズはとても本番では使えない。まずい……。
まずいがとにかく5足注文して、1足でも早く入荷したらすぐに連絡くれと頼んでおいたのである。

他にもトウシューズ売ってる店はあるでしょうに、といわれるかもしれないが、私たち母娘がとりあえず動ける範囲で買いに行けるあらゆる店でフィッティングを繰り返し、稽古で試しては替え、試しては替えて、いま注文している店はようやくたどり着いた、ジャストフィットのシューズをつくっている店なのである。しかもこの店のオリジナル製造品なので他店にはないのだ。
グリシコやカペジオといった海外メーカーの既製品なら、どんな店でも年に2回は叩き売りバーゲンをするし、インターネットなら年中安く手に入る。だいたい4,000~5,000円台が主流だ。そうした既製品に足が合えば苦労はないが、残念ながら超成長期(笑)の娘の足はフィッティングごとにサイズが微妙に違ったし、早くから土踏まず矯正治療を続けていることもあって、足を(トウシューズに限らずどんな靴であれ)入れるたびに感覚が異なるというし、陸上で酷使して傷害もでていたし、などなど複合的多層的理由のもと、「あ、これ24.5cmね、足幅も足回りも合いそうだわ、これまとめて買っちゃえ」というふうには一度として買えなかったし今後も買えそうにないのである。

夏場の購入は気をつけないとなあ、というのが今回の教訓だが、なんにせよ店から連絡がないのは困ったもんである。5足分の予算35,000円は使い込まないように別にとってあるんだけど(笑)。


パリ・オペラ座バレエ学校の幼い生徒たちのことをles petits ratsという。レ・プチ・ラと発音する。最後の「ラ」は限りなく「ハ」に近い発音である。小さなネズミたちという意味である。バレエ学校の廊下やスタジオをちょこまかうろうろする様子を表現したものだ。わが娘も、いまの教室で最初に経験した全幕バレエでは、主人公の少女の夢に出てくる小さなネズミの役をもらった。それから十年が過ぎ、ネズミというにはあまりにもでかくなりすぎた娘は、飼い猫にも教わった(笑)ステップ pas de chat(パ・ドゥ・シャ。saut de chat ソ・ドゥ・シャともいう。「パ」はステップ、「ソ」はジャンプ)を少しは華麗に踏めるようになった。毎回「元気な」演目だったが、9月の発表会ではかなり「エレガントな」演目を踊る。チャレンジの巻、である。

シューズ来い来い、早く来い~~~