ジェーンとエミリー、どちらがお好き?2007/06/19 06:16:10

手作りトリュフ。
たしかバレンタインの頃、いっせいに店頭に並んだチョコづくりキットでつくった。で、自分たちであっという間に食べた。
「トリュフ」の名が、実は豚にしか見つけられないけったいなキノコの一種を指すってこと、どのくらいの認知度なのかしら。


『カモ少年と謎のペンフレンド』
ダニエル・ペナック作 中井珠子訳
白水社(2002年)


「カモ」は鴨ではなく、少年の名前。物語の設定では「カモ」の母親は10か国語(以上?)に通じているので、たぶん息子の名前に異国風の名前をつけたんだろうな、と思わせる。カモの名前はどうでもよいのだが、このお母さんは重要人物である。

前にペナックさんのことには触れたけど、こういう作品を読むと、「外国語の習得は母語を豊かにする」という考えがペナック氏を貫いていることがよくわかる。
フランス語からみた外国語とはまず、英語、ドイツ語、スペイン語などなどヨーロッパ諸語だが、いうまでもなくこれらの言語はきょうだいかいとこみたいなものだ。極端な言い方をしちゃうと日本のいわゆる共通語と津軽ことばや琉球語などとの違いほど、違わない(と思う)。彼らにとって習得はさほど困難なことではないので、小学校から学習する。
日本においても方言を排除するのでなく保存に努め、その言葉でしか表現できない固有の地域文化を大切にしようとする活動があって私は大賛成だが、隣接の言語文化に通じることは間違いなく母語を厚くする。
フランス人はフランス人であると同時にヨーロッパ人でもあるから、隣国の言語ひとつやふたつの習得は必須なのだ。

カモは英語の成績が破滅的。多言語に通じるカモの母親は息子が情けなくてしかたない。転職癖のある母親は、「私が次の仕事を3か月続けることができたら、今度はあんたが3か月で英語をマスターするのよ!」とカモに宣戦布告まがいの賭けを申し出る。で、母親は3か月をクリアしてしまった。
途方に暮れるカモに、母親は英国人との文通を勧める。まったくやる気のないカモ。とりあえず受け取った手紙は当然ながらチンプンカンプンで、友達に翻訳してもらう始末だ。
しかしやがて、カモはその内容に惹かれ始める。手紙の主キャシーが切々と書き綴るかの国での暮らし。カモはやがてむさぼるようにキャシーの手紙を読むようになり、必死で自ら「英語で」返事を書くようになる。
英語の成績急上昇。しかしカモの顔色は冴えない。恋の病とでもいうのか……。

文通相手との仲介をするのはバベル社。カモの上級生にもバベル社の仲介でロシアのペンフレンドと文通している少年がいる。
で、彼も半病人のようなのだ。
バベル社経由で文通している人はみな、何かにとり憑かれている……?


いまどきペンフレンドはレトロだけど(本書の原書はもう十年以上前に書かれているので無理もない)、手紙を書くのが大好きで何人かのペンフレンドを持った経験のある身としては、文通の醍醐味はよくわかる。

「バベル」社という名前は、今まさにタイムリーというべきか(笑)。

物語を通じて、外国語を学ぶにはその国の文学に触れるのがよい、というメッセージが送られる。カモのペンフレンド、キャシーの向こうには『嵐が丘』が見える。上級生のロシア人ペンフレンドの向こうにはドストエフスキーが見えるのだ。

私は『ジェーン・エア』も『嵐が丘』も読んで、描かれる世界の意味がイマイチわからなかった若い頃には『ジェーン・エア』のほうが好きだったけど、何年かのちに再読したら『嵐が丘』のほうが好きだった……ああ、たぶんケイト・ブッシュが好きだった頃と重なるのだ。
さて今はどうだろうか、読む気全然起こらないけど(笑)。

本書はダニエル・ペナックへの興味から自分で買い求めた本だが、娘に読み聞かせたところ、ブロンテもドストもてんでわからないにしろ、物語の結末には大満足♪だった。