revenant ― 2007/12/20 18:20:45
しばらく帰国しますヨロシク、とジャン青年が町内会長宅へ挨拶に訪れた。一か月後にはまた日本へ来るというから、ほんの一時帰国である。ジャンに好感を持っていた町内会長は、帰ってきてな、居らんと寂しいよと笑顔で見送りつつ、今後このようにたびたび帰国するのだろうか、それだと町内の役員は頼めないなあと、頭の隅で別の心配をした。
ジャンが住んでいる路地奥の三軒長屋のうち二軒は空き家になっている。富ばあさん亡きあと、その家は借り手がない。もう一軒はかれこれ二年以上前から空き家である。この長屋の持ち主は以前町内の住人だったが、今は隣町に住んでいる。引っ越すときに町内のほかの土地は売ったが、この路地奥は買い手がつかず、古い家のまま残しておいたら、そのうちに物好きな借り手がぽつぽつ現れた。他県から来た学生や芸術家、また外国人留学生などが入居しては出ていったが、やがて富ばあさんが住み着き、しばらくしてジャンが来た。ジャンは、来日当初は他都市の大学の留学生だったらしいが、学業修了後、住みたかったこの町で仕事を見つけることができたので日本に居ついている、と町内の者は皆聞いていた。
長屋の持ち主が久しぶりにやってきて町内会長宅で話したところによれば、富ばあさんがいた家の家賃を、ジャンが払い続けているという。「連絡はいつも電話なんで、はっきり聴けてないんやが、トミサンデブナンときどき来る、とかなんとかいいよるんや。必要やから借りておきたいって。なんやわからんが、家賃きっちり払うてもうたらそれでええ、というたんやが」
ジャンの発言には時折不思議な言葉が混じる。だがそれはいつものことだから町内の住人はその意味を推測したり、わかれば該当する日本語を教えてやったりできるので、意思の疎通に困ったことはほとんどないのだが、富ばあさんの絡む話だと全然見当がつかないことがしばしばである。とはいっても、それで困ることもやはりなかった。町内会長は家主の話を聞き流していた。
一か月経って、ジャンは予告どおり再び長屋へ帰ってきた。そして町内会長宅に挨拶に訪れ、一冊の本を差し出した。
「トミサンの、ショセツ。翻訳しました。ドゾ」
「しょ、しょせつ？ 小説？ 富ばあさんの？ 翻訳だって？」
町内会長はわけがわからずただ驚き、そのフランス語の書物を縦にし横にし、裏返したりめくったりして眺めた。タイトルらしき大きな字の下に「Tomi Yamanaka」と、たしかにある。何枚かめくると再び題名と著者名があり、下のほうに、ジャンの名前らしきものが記されていた。ほう、ほうと、わけがわからないままただ頷く会長にジャンは照れくさそうな笑みを見せていった。
「やっとできた。わからないとき、トミサンの家でじっと考える。トミサンのレヴナン来て、教えてくれる。トミサンのおかげ」
トミサンのレヴナン。町内会長はいつかの家主の来訪を思い出し、合点がいったというように「富ばあさんの幽霊が来たのか」と確かめるようにジャンに問いかけた。
ジャンは、そう、そのことだよと言うように目を見開いて、ウイと答えた。
コメント
_ ヴァッキーノ ― 2007/12/20 21:36:31
_ きのめ ― 2007/12/20 22:45:10
怪談話もこうなると別のジャンルですね。
小泉八雲は幽玄でしたが
蝶子さんは、死者も生者も和気藹々という感じで
元気はつらつです。
小泉八雲は幽玄でしたが
蝶子さんは、死者も生者も和気藹々という感じで
元気はつらつです。
_ midi ― 2007/12/21 07:47:55
おはようございます。お読みくださってありがとう。
いつまで続くかわからないけど、ちょっとずつ、だらだら書きます、ジャンの話。
いつまで続くかわからないけど、ちょっとずつ、だらだら書きます、ジャンの話。
_ おさか ― 2007/12/21 13:01:03
やっぱりジャンはいい人だったのですね（笑
いいなあ、富ばあさん。化けてでるならこんな感じになりたいものです
いいなあ、富ばあさん。化けてでるならこんな感じになりたいものです
_ midi ― 2007/12/21 17:18:36
そう、いいひとなのよ。
トミサンのハイカラばあさんぶりにもそのうち触れるわね。
トミサンのハイカラばあさんぶりにもそのうち触れるわね。
_ 儚い預言者 ― 2007/12/21 23:13:05
KYOTOは世界語である。古来日本の都だからこそ、文化の混合がおこしやす、いや起こりやすいのだろう。
戦争では、空襲の除外が行われたのは、この文化という偉大な力のお陰である。
京都の人は、外の人を別扱いにするというのも、それは文化の厚みの一つの断面でしょうけれど、逆に他界？や海外の人はいつも厚遇されていると思うのは、大阪人のひがみ以上ではないでしょう、きっと。すみません、懺悔。
戦争では、空襲の除外が行われたのは、この文化という偉大な力のお陰である。
京都の人は、外の人を別扱いにするというのも、それは文化の厚みの一つの断面でしょうけれど、逆に他界？や海外の人はいつも厚遇されていると思うのは、大阪人のひがみ以上ではないでしょう、きっと。すみません、懺悔。
_ midi ― 2007/12/23 07:26:06
いや、かなんわあ預言者はん、異人はんだけやのうて、なにわのあきんど衆かてよう遊んでいっとうくりゃすえ。うちら、どっからのお客さんでもたのしゅう遊ばはる人は好きどすけど、そうどすなあ、遊びかたに「品」のない人はあんまり好きやおへん。どういう意味て？ いや、かなんわ、そんなん自分で考えとくりゃす。ほな、おおきに。
_ コマンタ ― 2007/12/24 00:42:41
なまえに梅のつく人だった気がするけど、たとえ日本がなくなっても京都は残るだろうっていってましたね。ぼくも京都にうまれて京都弁しゃべりたかったどす。今日テレビつけたら女の子たちが京都の街を走っていたなあ。優勝はなんとか宇治。
_ 儚い預言者 ― 2007/12/24 13:37:18
そうか、やはり若いフランスの優男には勝てないらしい。この私の心にうなる大金、いや大品、いや大情に、きっとあなたを落してやるーー。バッシー。「あなたは大情じゃなくて退場しておくれやす」「そう言われても口に出せば同じじゃないか」「あーら品のない方」「じゃこいとら選集のいや泉州のがき垂れだい」「またおこしやす」「何じゃきたってるやないか」「ほな、おおきに」「お前に手を出す前から話にならん」「はい、だんなはんかなわんわ」「今度はきっと、きっと、くーーーーー・・・・・わーーーん」「あら、泣かしてくだしゃった、おおきに」
_ midi ― 2007/12/25 06:30:52
おはようございます！ よい子のみんな、サンタさんは来たかな？
コマンタさん
なんとか宇治は有名な選手も排出している陸上の強豪ですねえ。ウチのさなぎが行きたがってますが特待生プラス南仏の別荘プラスシトロエンの２CVなら行ってもいいと言いました。
預言者さま
フランス人でなくても優男でなくてもいいけど若い男じゃないとダメですねえ。いまさらオヤジの相手は嫌ざんす、すぐ要介護になっちゃうじゃない……とこれは、取引先の才媛（独身／推定45歳）と意気投合した会話の中身でした。
コマンタさん
なんとか宇治は有名な選手も排出している陸上の強豪ですねえ。ウチのさなぎが行きたがってますが特待生プラス南仏の別荘プラスシトロエンの２CVなら行ってもいいと言いました。
預言者さま
フランス人でなくても優男でなくてもいいけど若い男じゃないとダメですねえ。いまさらオヤジの相手は嫌ざんす、すぐ要介護になっちゃうじゃない……とこれは、取引先の才媛（独身／推定45歳）と意気投合した会話の中身でした。
_ 墓無いいえ儚い預言者 ― 2007/12/25 20:27:42
うにゃうにゃ、お嬢さんいま何かおっしゃったかのう。わしはもう耄碌で齢５０００年を越えてしまったのじゃ、さすがにじゃ、年は食うもんじゃない。耳も遠く、よだれも垂れる、小水も漏れる、いいことじゃないわい。しかしな、私の夢はな、はっきりしているのじゃ。此処まで生きていると、この永遠ということの儚さを逆に身に染みるのじゃ、幼さも年寄りも関係の無いこと、それはなんじゃんだろう。わしはひとつの結論を出そうとしているが、これは年寄りの戯言にしかすぎん、まあこれはあなたとの夢の相違であることも承知しているが、年寄りの冷水であろうか。
愛は無限であるということは、何を意味しているかだ、それは相対を超えた一なるものだ、それには時間も空間も認識すら超えている。逆に言えば一瞬こそ永遠の姿なのだ。愛が持続するというのは、嘘だ。それはこの世の戯言である。それを本当に知れば、この今に生きることの、息することの、瞬間の大事さが分かるであろう。 実際、未来過去という幻想を捨てれば、愛が永遠にあることがわかる。それこそあなたへの愛であり、今の夢を目覚めさせるのが愛なのだ。愛しい人よ、気づいておくれ、いま私があなたとひとつであることを。このよぼよぼの爺さんも同じ愛の中にいることを。
普遍性とはこの世では特別な、愛の永遠性を詠うことだ。
愛は無限であるということは、何を意味しているかだ、それは相対を超えた一なるものだ、それには時間も空間も認識すら超えている。逆に言えば一瞬こそ永遠の姿なのだ。愛が持続するというのは、嘘だ。それはこの世の戯言である。それを本当に知れば、この今に生きることの、息することの、瞬間の大事さが分かるであろう。 実際、未来過去という幻想を捨てれば、愛が永遠にあることがわかる。それこそあなたへの愛であり、今の夢を目覚めさせるのが愛なのだ。愛しい人よ、気づいておくれ、いま私があなたとひとつであることを。このよぼよぼの爺さんも同じ愛の中にいることを。
普遍性とはこの世では特別な、愛の永遠性を詠うことだ。
_ 墓無いいえ儚い預言者 ― 2007/12/25 20:28:04
うにゃうにゃ、お嬢さんいま何かおっしゃったかのう。わしはもう耄碌で齢５０００年を越えてしまったのじゃ、さすがにじゃ、年は食うもんじゃない。耳も遠く、よだれも垂れる、小水も漏れる、いいことじゃないわい。しかしな、私の夢はな、はっきりしているのじゃ。此処まで生きていると、この永遠ということの儚さを逆に身に染みるのじゃ、幼さも年寄りも関係の無いこと、それはなんじゃんだろう。わしはひとつの結論を出そうとしているが、これは年寄りの戯言にしかすぎん、まあこれはあなたとの夢の相違であることも承知しているが、年寄りの冷水であろうか。
愛は無限であるということは、何を意味しているかだ、それは相対を超えた一なるものだ、それには時間も空間も認識すら超えている。逆に言えば一瞬こそ永遠の姿なのだ。愛が持続するというのは、嘘だ。それはこの世の戯言である。それを本当に知れば、この今に生きることの、息することの、瞬間の大事さが分かるであろう。 実際、未来過去という幻想を捨てれば、愛が永遠にあることがわかる。それこそあなたへの愛であり、今の夢を目覚めさせるのが愛なのだ。愛しい人よ、気づいておくれ、いま私があなたとひとつであることを。このよぼよぼの爺さんも同じ愛の中にいることを。
普遍性とはこの世では特別な、愛の永遠性を詠うことだ。
愛は無限であるということは、何を意味しているかだ、それは相対を超えた一なるものだ、それには時間も空間も認識すら超えている。逆に言えば一瞬こそ永遠の姿なのだ。愛が持続するというのは、嘘だ。それはこの世の戯言である。それを本当に知れば、この今に生きることの、息することの、瞬間の大事さが分かるであろう。 実際、未来過去という幻想を捨てれば、愛が永遠にあることがわかる。それこそあなたへの愛であり、今の夢を目覚めさせるのが愛なのだ。愛しい人よ、気づいておくれ、いま私があなたとひとつであることを。このよぼよぼの爺さんも同じ愛の中にいることを。
普遍性とはこの世では特別な、愛の永遠性を詠うことだ。
_ 儚い預言者 ― 2007/12/25 20:29:48
耄碌はいやじゃ、何回も同じ事をいう。ああーーん、ぐすん。
_ midi ― 2007/12/25 22:39:03
きゃははは預言者さまあ、上と下で、間違い探しするんですかあ？？？ 難しーーい 見つからなーい（笑）
特になぜか、外国の人とかになると、もうダメ。
説得力はあるし、ズルイ！
とか言いながら、多分ちょーこさんは、いたって普通なんだろうなあ。