ほんとにこんなにつまみ食いされまくる男っているんだろうか一度会ってみたいもんだと感心したの巻 ― 2009/01/31 20:52:52

『潤一』
井上荒野 著
新潮文庫(2006年)
新潮文庫の Yondaマークを集めてもらえる腕時計を目標に読書、がんばるぞー!と娘と誓い合った夏(ヤツは即刻忘れたようだが)。まず、我が家にある新潮文庫を総点検(笑)。マーク付きのカバー、けっこうあるではないか。Yondaマークっていつからあるのか知らないけれど、ずいぶん前に買った文庫にも付いている。とはいっても、腕時計をもらうための目標数にはまだまだ。というわけで、ウチには一冊もない作家のもので、300〜400円台の薄い本(まかりまちがって娘も読むかもしれないから)をどさどさと買った。
『潤一』はそのうちの一冊。
井上荒野は新聞に連載していたコラムを読んで以来好感を持っていたので、いつかその小説を読みたいと思っていた。思いながら、きっと私はこの人の小説をつまんねーと思うだろうな、という予感があった。それで、二の足を踏んでいて、なかなか読まずにいたのだが、最近の文庫って普通に500円とか600円するんだなあまったく生意気な、と本屋でぶつくさいう私の目に飛び込んできた本書は400円であった。
「潤一」という茶髪の華奢な若者とかかわりをもつ年齢も境遇もさまざまな女たちの話がそれぞれ一人称で語られる短編集といった体裁だ。女たちはふとそこに現れた潤一につい手を出してしまう。女たちは主婦であったり職業人であったり未亡人であったり中学生であったりする。潤一とのかかわり方が、読み手に「あ、やっぱりね」と思わせる通り一遍なものといえなくもないぶん、女たちの人生は波乱含みで表情豊かに見えるように思えなくもない。ややこしい書き方をしてしまったが、ひとつひとつの話は、ヴァリエーションをもたせてはいても、恋愛小説によくありそうなシチュエーションと展開で、女たちはそこらじゅうにいそうで、その女の伴侶や恋人や情夫たちもやたらいそうである。
それらの話が潤一という青年の存在で妙な鎖、錆びてはおらずむしろ光沢があるけれども実は脆い鎖、に繋がれていく。潤一は女ひとりひとりの、あるいは話ひとつひとつの強靭な絆の役割を果たすわけでも共通のフィルターやパイプの役を果たすわけでもなんでもない。そういった脆さと危うさ、なんだかわからないけれどありそうな話をありそうにないつながりでまとめあげたところに、この本の魅力があるのだろう。
あるのだろう、といってしまったがそれは、実はけっこう面白く読んでいたのに、最後の「潤一」の章で興醒めしてしまったからだ。潤一という中心人物をそのまま蜃気楼のようにしたままでは、小説を締めくくることはできなかったのだろうか。
うんうんと共感できたのは「環」「美雪」「香子」。
肩透かしを食わされた感じは「あゆ子」「瑠依」。
ほんとにいるんだろうか会ってみたいもんだ、などとタイトルに書いたけど、今ふと、私の記憶のなかの「潤一」がよみがえった。私の「潤一」は、別れ際に確かこういった。「またきっと、会えるからさ。……会えねえか。な」
《記憶には油断できない。記憶は、ときに人を謀ることさえあるような気がする。》(「あゆ子」61ページ)
私はきっと、未練がましい顔で彼を見つめていたのだろう。元カノへの思いをふりきれないという彼を軽くあしらうつもりだったのに。私の「潤一」は小説の潤一とは違って茶髪でもなかったし浮いた感じもなく実直な印象だったけど、たぶん、芯のところでは潤一に似ている。最終章の「潤一」を読んでそう強く思った。
*
早いもので2009年になってもうひと月が過ぎようとしています。
新年の休暇はどのように過ごされましたか。
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なぜかというとPCを新調したのですが、旧PCのデータを全然取り込めないので、ブックマークをゼロから構築しているんです……。こういうのを私たちの土地ではどんくさいしんきくさいめんどくさいといいます。
コメント
_ コマンタ ― 2009/02/01 01:03:38
_ おっちー ― 2009/02/01 02:26:40
でも「潤一」の女性版には何人か出会ったことがあります。
1年のうちに、何人かの男性と付き合う女性。
そういう方ってやっぱり魅力を持っていて、僕もその魅力に、魅せられていた方でした。
結局彼女とは付き合うまでには至りませんでしたが。
今でも僕の青春の大きな部分を占めている女性です。
あーでも昨年結婚しちゃったんですよね、彼女。
今だにその子の夢をみます。
_ midi ― 2009/02/02 11:04:15
コマンタさん
>「つまみ食い」の経験があったとは意外です。
つまみ食いばっかしてメインディッシュにありつけないで現在に至る、ってのが何を隠そう、私です。
メインディッシュにありつけたひとはその一皿を大事になさってくださいね。
おっちーさん
「彼女」はいくつかのつまみ食いを経ておいしいメインディッシュにたどり着いたのですね。偉い。女はそうでなくちゃ。
男もそうでなくちゃ。おっちーさん、がんばれ(ってなんのこっちゃ)。
_ おさか ― 2009/02/02 17:39:27
つまみ食いされる男かあ
つまみ食いしている男なら何人も見ましたが(私がされた、という意味ではないですよ)
される男・・・うーん、確かにいないかも?
なんか女王様がお小姓かなんかに「愛い奴、近うよれ」とかいってるイメージが(笑
社会的に女が強くなってきた過程で出てきたパターンですかねえ
つまみ食いをするべきかしないべきか
保険を比較検討するべきかしないべきかに似ているかも
あまりしすぎると
わけわかんなくなって
もういいや、別に
となるのかもしれない
これはつまみ食いなのかメインなのかと考えず
若気の至りで突っ走ってかっ食らうのがいい場合もあるかもです
他にもいいのがあったかも、と思ってももう引き返せないところに自分を追い込む、わはは
ブログ、まだまだ整理中なのでつまんないですが(笑)遊びに来てくださいねー♪
_ 儚い預言者 ― 2009/02/02 18:14:14
ぜひ知ってもらいたいことは、「いまここにすべてがある」ということだ。そして人間はそれを忘れて、或いは隠して、旅しているということだ。
だから人間は多面体にカットされたダイヤモンドのように、その輝き方によって、シグネチャーが現れている。
メインディッシュというならば、それは人間まるっぽの包括的な愛しさへの、要するに無条件の愛に溶ける契機にだけにはなるだろう。
いつも矛盾がある。特別と普遍という関係である。それは好みであって、それ以上でもそれ以下でもない。
いとおしく
ただだきしめて
ときふかく
ここにあかりの
あなたのひとみ
でもそれは学びでもある。そういう志向性がなければ、どんな物語が紡げるのであろう。喜びの懐への回帰には、必ず其々の夢が必要なのだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<私はきっと、未練がましい顔で彼を見つめていたのだろう。元カノへの思いをふりきれないという彼を軽くあしらうつもりだったのに。>
は、
<私はきっと、未練がましい顔で彼を見つめていたのだろう。元カノへの思いをふりきれずにいたから、彼を軽くあしらうつもりだったのに。>
でどうでしょう。
_ よっぱ ― 2009/02/02 19:57:11
つまみぐいというものは、最初から本気ではないということの証なのか、それとも本気になるかもと思って二股を開始しようとした矢先に相手の薄っぺらさが目に付いて、結果つまみぐいになるのか…
気になるところではあります。
あ~ つままれてみたいような、怖いような(笑)
_ ヴァッキーノ ― 2009/02/02 20:41:09
坊主はもてないのかなあ。
って、それよりも内在された何かが、そうさせるんでしょうね。
まあ、男はバカでスケベな生き物だということは自覚しております。
それ以外に、何か考えるもんでしょうか?
男って・・・・・・情けない生き物です(笑)
蝶子さん、ごめんなさい!
ボクは、バカでスケベです!
うえーーん。
_ midi ― 2009/02/03 17:33:39
>つまみ食いをするべきかしないべきか
>保険を比較検討するべきかしないべきかに似ているかも
そっかあーーーーー???? 似てないよ(笑)
つまみ食いはしちゃいけませんよ、モラルに照らすなら。
保険の比較検討はしなくちゃいけませんよ、絶対。老後のため、万一のときのためにしまったと思わないために。
……なんだけど、つまみ食いはしまくって保険は検討しないどっかの誰かのようなバカがいるからこの世はオモロイということでしょうか(笑)
預言者さま
URL、忘れてますよ。次回お越しの際は入力してね。
>いつも私は啓示を
お世辞がお上手。でも、人の書いたものって確かになんかの取っ掛かりにはなりますよね。
ところで最後のご指摘は、オカシイです。男が「元カノへの思いをふりきれずにいた」ことを、「軽くあしらう」【理由】として書いたつもりはないし……。
よっぱさん
うん、それ、両方でしょうね。つまみ食いされたほうがつまみ食いしたつもりかもしれないしね。どっちもどっち。……ですめば平和なんですけどすまないことが往々にしてあるから修羅場があったりしてこの世はオモロイ。
ヴァッキーノさん
URL、忘れてますよ。こないだヴァキブロに行ったけど、会社のPCからだったのよ。だからウチのPCからは行けないのよ。だからこの次は入力してね。
そんなの束にして転送すりゃいいじゃんか、とおっしゃる向きもあるでしょうがそれがめんどくさいから他力任せにしてるざんすよ♪
ところでヴァッキーノさん、
>ボクは、バカでスケベです!
知ってますよ(笑)よかよか。そのまま邁進なされませ。
_ ヴァッキーノ ― 2009/02/03 21:25:30
URLってこうやって張り付ければいいんでしょうか?
ちゃんとリンクされていたら、よろしくお願いします。
_ ぎんなん ― 2009/02/03 22:27:07
またそのまずいメインディッシュでも全部食べないと勿体無いか、もうちょっと食べたら美味しくなるかもとさもしい気持ちで食べ続けちゃったりすると、もう何がなんだか。
私は霞を食って生きていきたい。
つまみ食いって、そもそもそいつがつまめる存在だからつまむんだろう、と、さっぱり訳のわからないことを呟いて、URLを残して去る。
_ midi ― 2009/02/04 08:21:12
ぎんなんさん
ははははははは。なにつぶやいてんだー(^0^)訳がわからないといいつつむっちゃわかるような気がするぞー(笑)霞を食うのはまだまだ先だよ。とりあえずメインディッシュを百回噛みなさい、一口ごとに。そうすりゃ味わいがでてきますよ、もっともっと。あ、そんなのもう試したってか?
_ 儚い預言者 ― 2009/02/05 15:33:35
等しさと浮遊の夢をここまで言うのは、やはり「ぎんごと」の反動だろうか、バッシー、ひーー、絶対助けてくれない蝶子さま、助けてーー。
蝶「勝手にやんな」
ぎ「私なんかした?」
預「そうか私は宇宙の愛だったのか」
蝶、ぎ「あほか」
預「愛は与えるほど増えるのだ」
蝶「しっしっし」
ぎ「組めるプログラムにならない、もうおよし」
_ midi ― 2009/02/06 09:52:28
おはようございます。
助けません。
つまみ食いでしか味わうことのできないものはあるのだろう、と思います。そういうアドホックな経験のなかにもきっと純真なものがあったはず、とうっとり想像したいぼくは、つまみ食い未経験者でした。