あたしもトリツカレるほど惚れたいし惚れられたいよ、でももう面倒だよねそうだよねと同年代の取引先の女性と立ち話をしましたの巻 ― 2009/02/10 19:34:41

『トリツカレ男』
いしいしんじ 著
新潮文庫(2006年)
前回の『天国はまだ遠く』と前々回の『潤一』と一緒に買った本。これは380円。……って、もうわかったって?
いしいしんじの名前は、図書館の機関紙に紹介されていたのを見たのが最初だったと思う。その次に、たぶん童心社の機関紙『母のひろば』に寄せられていた本人の文章を読んだ。以後、気になりつつも、読む機会を逸していた。一度『ぶらんこ乗り』を借りたが、忙しくて一度も開かないまま二週間の貸し出し期限が過ぎて、読まずに返却してしまった。それからまたしばらくして、誰かが恩田陸という作家がいいよといっていたのを思い出し、その恩田陸の作品が巻頭に載っている『本からはじまる物語』(メディアパル 2007年)というコンピ本を偶然書架に見つけて借りてみたら、そこにいしいしんじの「サラマンダー」も収録されていた。内容は全然覚えていないが、文体にとても好感をもったことを覚えている。
(※ちなみに『本からはじまる物語』の中では、普段あまり好きでない今江祥智作品がいちばん私にはじーんときた。巻頭の恩田作品はへえ、ふーんと楽しく読んだ。でも全体に、期待外れだった。コンピタイトルが非常にそそるものだったので非常に期待したのがまずかった)
よしこの次は単著を読むぞ、必ず読むぞ、きっと面白いぞ、と、それ以来いしいしんじの名はいよいよはっきり私の頭に意識されてきた。こういうことは珍しい。気になるなあと思って借りるなり買うなりして読んだ作家はたいてい私とはそりの合わない作家だったりすることが多い(さのようことかなしきかほとかえくにかおりとかしげまつきよしとかいしだいらとか)ので、普段作家を意識するということは全然ない。とはいえ、いしいしんじにしても、もう少し時間が経てば気になっていたことなど忘却の彼方へ葬られていたはずなのだ。新潮文庫のYondaマーク集めようなんて話になってよかった。この本が新潮文庫でよかった。380円で売っていてよかった。もし500円なら買っていなかった。
中身を吟味しないで買って、それでもああ買ってよかった、と思える小説本なんてめったにない。だいたい買う冊数はほとんどゼロに近いんだけど、それでも私だって小説本を買う。絶対ほしい、手許に置いて何度も読みたいと思ったら(予算が許せばだけど)買う。
家には何でこんな本があるんだろう、これを買うとき私は何を考えていたのだろうとと思われるような、つまらないことこの上ない小説本がけっこうあるが、それらはたいてい、若気の至りで、訳わからないまま買い込んだものたちであって、今となっては青春の傷跡みたいなものであるからして、それらはそれらで私には愛しい本たちである。
何がいいたいかというと、若気の至りで衝動買いすることがなくなった現在、また物理的スペース経済的余裕の有無という問題も手伝って、よほどのことでない限り、文庫であっても本は買わないのに、Yondaマークほしさにエイヤ!で買ったら、ぱんぱかぱーん当たりくじだった!と表現したいくらい楽しい本だった。
ジュゼッペは何かに凝り始めるとそれしか見えなくなってしまうほど熱中してきわめてしまうので、トリツカレ男とあだ名されている。最初、このジュゼッペのトリツカレ武勇伝なのかなあ、だったら単調だなあ、と思わせるのだが、もちろんそうではなくてちゃんとお話は正しく盛り上がっていき、これでもかこれでもかともったいをつけて読者をじらしながら、トリツカレ男もここまでやりますかという展開を見せて一気に結ぶ。話はやたら飛躍するし、脇をしっかり固める多様な登場人物の描き方にも、物語に厚みをもたせようとする余りといっていいのか、若干無理があるようにも思うけれど、ある意味ありえねー話なのだからこれはこれでいいのであろう。ありえねーけど、嘘くさくない話。突拍子もない展開だけど、描かれるその一途さは、けっきょく、古今東西いつでもどこでも読む者を泣かせるピュアハート。ジュゼッペみたいなヤツって、それにあの人物、それからこの人物、こいつらって、あっちにもこっちにも、いるじゃんいたじゃん、みたいな気持ちになれて、何だか万人を愛せそうな、そんな読後感がある。
文体もストーリーも挿画もいっぺんに、まったく先入観なしで味わってほしいので、引用はしないでおこう。
*
じつは今週、娘の誕生日なんですよ。
出産予定日はバレンタインデーだったんだけど、けっして故意にではなかったんですが、はずしちゃいました。でも毎年、バレンタインというビッグイベントで周囲の友達はさなぎの誕生日どころではなかったりする(笑)
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なぜかというと(以下、前々エントリに同文。ずぼらしないでちゃんと書けって? すんまへん。……あ、「ずぼら」って方言?)
コメント
_ おっちー ― 2009/02/10 23:10:53
_ なまけもの ― 2009/02/11 10:25:29
うちのは強力粉+オリーブオイル+水オンリーです。セロリはサラダで食しています。
薄くきれいに切れているところにも感動しました。
URLは再発時に備えて貼っておきますね・・・。(笑
_ midi ― 2009/02/12 08:11:53
キャラメルボックス、知ってますよもちろん。上川君がテレビに出始めた頃、実はこんな小劇団の役者なんです、みたいな紹介のされ方をしてました。
この小説は、芝居の下敷きにするにはうってつけかもしれないですね。それでも、まずは読んでほしいな。
なまけものさん
オリーヴオイルですかあ、おっしゃれー♪
ウチは油脂分としてはマーガリンを使うことが多いのですが、オリーヴオイルを使う場合も同量でいいのかなあ。
_ 儚い預言者 ― 2009/02/12 23:58:52
そしてそれを使わなければ枯渇する。源流との切り離しである。よって若さを保つには、生き生きとするには、必ず惚れることが、そして惚れられることが不可欠なのだ。
惚れて魂を抜かれると言われるが、本当は逆なのである。惚れてこそ真実を体験できるのだ。その逆も真なり。
それはストーカーのことではない。その違いは真と虚のそれに等しい。
二兎追うものは一兎も得ず。
一芸に通じるものは、多芸に通ず。
まこと人生は不可思議である。心底分かっていながら、分からない振りをして、不死の魂である自分を探求している。
だからあなたに伝えよう。知ることは幸福。知らないでいることも幸福である。
あなたがいつもあなたでいますように。
_ midi ― 2009/02/13 19:56:16
痛いなあ……まさしくあたしの人生……(しょんぼり)
_ 儚い預言者 ― 2009/02/13 22:02:11
意気消沈させてしまったーーー。
えーーーっと、お詫びに・・・・・。
あなたが一番したいことを叶えます。
誰にも言わず、寝入る直前に想いをピンク色の風船に包んで宇宙へ飛ばすのです。
それで終り。
それがどうなるかは気にしない。
まあ、驚き、ある時にそれが乃至は状況が実現するのです。
本当は即時なのですが、この3次元の世界への定着は、どうも色々とあることなので、ひょっと出てくる感じだと思えばいいのかもしれません。
そう執着しない。追求しない。だってすでに叶えられているのだから。
_ midi ― 2009/02/14 09:40:34
今度風船買ってきます。って、ちがう?
面白そうな本が次から次へと。(笑)
でも個人的には、前回の『天国は~』の方を先に読んでみたい。気になるのは引用があったから?
で、この『トリツカレ男』。
どこかで聞いた事あるな~
似たような題名の演劇のパンフを目にしたのでは?
と思い、検索したところ、出てきました出てきました。
まさに題名は『トリツカレ男』。
この小説原作の芝居が一昨年の12月に公開されていたんですねえ。
劇団は、『演劇集団キャラメルボックス』。
上川隆也の出身劇団です。
僕は何度もこの劇団の芝居は観たことがあって、とても好きなんです。
だからDMが送られてきて、それを僕は憶えていたんですね。
その芝居を観た人のブログを読んだんですが、絶賛してました。
観ればよかったか。ちきしょうめ。
いちおうそのブログのリンク、張っておきます↓。
http://nazon.cocolog-nifty.com/blog/2008/01/post_c5cd.html
また来ま~す。
ではでは。