不治の病の物語はいつも残酷2009/11/16 06:05:25

『私の中のあなた』というアメリカ映画を娘と観た。

キャメロン・ディアスが初の母親役、というので話題を呼んでいたそうだが、別にどこもおかしくなくて、ちゃんと仕事していた。というより、看病や心労でくたくたになっている表情なんかはすごくいい味出していて、はまり役だと思った。でもよく考えればディアスの他の作品をそれほど観ていないということに気がついた。あの『チャーリーズ・エンジェル』をテレビかなにかで見ただけだ。なのにどういうわけか私はいろいろな役を演じるディアスを観た気になっている。たぶん映画館やテレビでのさまざまな予告編、それを実際に観た友人の話、映画雑誌の記事などで観た気になっているのである。それほどディアスという女優の露出度が大きいということだな。

映画についての詳細はこちらで。
http://watashino.gaga.ne.jp/about/

若者が病と闘う姿のひたむきさ、彼らを取り巻く医療の現実。家族の心模様などよりは、そちらがうまく描かれていて、なるほど、そうなんだ、ふーんということが多かった。幸いにも病気と無縁の我が家では思考がそっち(病気や病院とか)になかなか行かないから、こういう類いの映画やドラマはいつも他人事だ。

四、五年前のことだけれども、近所のサエキさんちのリョウ君が白血病で亡くなった。六歳だった。就学目前の二月、彼は天に召されたのだった。サエキさんちには、リョウ君の上にお姉ちゃん、お兄ちゃんがいた。きちんと挨拶するいい子たちだ。とくにお姉ちゃんはよくリョウ君を連れて公園に来ていた。
リョウ君が闘病中だと知ったのは、遡ること一年くらい。リョウ君はウチの子が通っていたのと同じ保育園に通っていた。たしか何か所用で職員室を訪ね、ついでに懐かしい遊戯室を覗かせてもらった時のことだ。「リョウ君がんばってます」とか何とか書いた画用紙に、病室とおぼしきところで痛々しく頭にバンダナを巻いたリョウ君の写真がたくさん掲示してあったのだ。

リョウ君のお父さん、つまりサエキ氏は同級生の兄である。妹とは中一の時によく遊んだが、中二になると遊ぶ友達が変わって、高校は分かれて、その後は疎遠になったままだった。地元にいるけど独立して店をしている。お兄さんのほうは家業を継いで現在に至る。お兄さんとは子どものときは喋ったこともなかったが、お互い親になり地域行事などで顔を合わせるようになり、娘も参加していた子ども陸上クラブのコーチ役もしてくれていたので、よく話すようになった。

しかし、彼の口からリョウ君の病気のことは、当然、出てこなかった。偶然保育園でその事実を知ってからも、私は尋ねるのが怖かったし、こちらから何も訊くことはしなかった。
リョウ君が何歳で発症し、どの程度の治療を受けたのか、そういうことも知らない。

『私の中のあなた』では、ケイトは二歳で発症する。白血病との診断を告げる医師の表情は穏やかだがそれは、もう諦めなさいという死の宣告だ。考えうる限りの治療を試みるが、医師は、移植手術しか道はない、それも適合ドナーが現れなければ望みはない、といい、ただし適合ドナーを「創る」方法はある、と夫婦にもうひとり子どもを産むことをすすめるのである。
もちろん、遺伝子操作による試験管ベビーだ。
そして生まれた娘・アナは、生まれたその日から姉のドナー役として、体のさまざまな部分に注射針を射しメスを入れ、自分の身を提供する。
アナは今11歳。ケイトはアナのおかげで白血病と診断されたときから11年生き延びたのだ。

私は観賞中、やはりリョウ君を思った。サエキさん夫婦を思った。もしも選択肢としてそのような方法を提示されたら、彼らはその道を選んだだろうか。

ようやく字幕つき映画に慣れてきた娘が隣で鼻をぐずぐずいわせて泣いていたし、場内でも鼻をすする音がよく聞こえた。泣かせるシーンは随所にある。終了後会場から出るとき、若いカップルが「隣のオジサン号泣してて参ったよー」なんて話しているのを聞いた。子どもが複数いる家庭のお父さんやお母さんだったら、それぞれの子に固有の人生のあることをあらためて思い知らされて感動するかも。