一年の計は元旦にあり。こういう仕事がしたいっ!と強く思いました。 ― 2010/01/06 20:46:26
ジークフリート・レンツ著 松永美穂訳
新潮クレスト・ブックス(2003年)
2010年が明けました。
おめでとうございます。
本年も当ブログをご贔屓に、よろしくお願い申し上げます。
新年早々「遺品」だなんて縁起でもない。
そう思われてもしかたないのだが、暮れに、読みたい本が山のようにあったので、しかも高価なので、図書館に予約リクエストを大量にかけに行ったのだったが、そのときいつもの癖で外国文学の書架をぶらついていて、タイトルが目について引っ張り出した本がこれなのである。「遺品」が目についたのではなく「アルネ」が目についたのである。アルネって男の子? 女の子? ただそんな疑問が浮かび、勢いだけで手に取ったのである。うーむ自分にフィットするよい本との出会いはこんなもんなんだなあ、と読み始めて唸ってしまった。私好みのしっとり小説。マンガレリの「おわりの雪」と印象が似ている。
アルネは男の子である。12歳のとき、父親が一家無理心中を図ったが、アルネだけ蘇生術を施され生き残った。父親の友人宅に引き取られ新しい生活を始める。しかし。
《両親はぼくに、アルネの遺品を箱に詰めてくれないかと頼んだ。》
物語はこの一文で始まる。
つまり、冒頭からアルネはもう死んだことがわかっているのだ。
本を手に取り、裏表紙や見返しを眺めれば、アルネが一家心中の生き残りであるという「予習」はできるのだが、読者はこの冒頭で「え、生き残ったんじゃなかったの?」と戸惑うことになる。
物語の書き出しをもう一度。
《両親はぼくに、アルネの遺品を箱に詰めてくれないかと頼んだ。両親はまるまる一か月、何もしないでいた。困惑と、打ち砕かれた希望の一か月。そしてついにある夜、そろそろ彼の遺品を集めて箱に入れてもいいときなんじゃないかとぼくに尋ねたのだが、その口調は、ぼくへの依頼と理解せざるをえなかった。》
謎だらけ。穏やかな文体は、しかし読者の好奇心を喚起し、「ぼく」の妙に落ち着いた様子にときにいらだちも感じさせながら、最後まで、つまり「ぼく」の語りの最後まで、ぐいぐいと引っ張ってゆく。
「ぼく」は、アルネが引き取られた家の長男ハンス。アルネ12歳に対して当時17歳だった。アルネはこのハンスと部屋を共有する。辛い経験をしたアルネをハンスは当然温かく迎えようとする。それは最初は同情からだが、やがてアルネの聡明さや透徹な精神性に尊敬を覚えるようになる。十代の頃の五歳違いは大きい。アルネもハンスを兄のように慕い、信頼する。飛び級を推奨されるほどの、アルネの類い稀な明晰な頭脳にも、またガラスのように脆そうな精神にも、ハンスは寛容になれる。しかしハンスの弟、妹たちは、アルネと歳が近いだけにアルネをやすやすと受け容れることはできなかった。死の淵から蘇ったアルネには、どこか現実離れした言動がある。ちょっぴり不良ぶりっ子の弟、妹たちは「アイツとは話が合わない」で済ませてしまい、アルネを仲間に入れようとはしなかった。ハンス、ハンスたちの両親、両親が雇う警備員、港の人々、学校の教師たち。大人は皆アルネを評価し、優しいまなざしを向けるのだが、アルネは、歳の近いこの弟、妹たちともっと親密になりたかったのだ。ただ、それが願いだったのだが。
引用したように、物語は「ぼく」ハンスがアルネと過ごした三年間を回想するかたちで進む。部屋に残された遺品をひとつずつ手に取り、その品にまつわる思い出を語る。ときおり、「ああ、アルネ、きみは……」と亡き人に呼びかけながら。遺品を整理するハンスの部屋には、父や弟、妹たちが訪れて、しばしアルネについて語り、そうしてまた部屋を出てゆく。最後にもういちど弟がやってきて、兄が片付けかけていた品をひとつずつまた取り出して、もとの位置に戻していく。外された古い海図をまたピンで壁に留め、埃をかぶっていた読みかけの本は埃をぬぐってまたベッドサイドに置く。部屋はまたアルネがいたときのようになった。兄と弟はそのとき初めてアルネへの愛情を共有する。アルネに本当に戻ってきてほしいという気持ちを分かち合う。しかし、それはもう叶わない。叶わないとわかっているし、それは悲しすぎるのだけれども、ただその場所の美しさだけが読む者の心に沁みてゆく。
そう、読後感は「美しかった」に尽きる。悲しいけれど穏やかな語り口調に温かな気持ちになるとか、少年の孤独な魂に心を揺さぶられるとか、いろいろ評価のしかたがあるようなのだが、どれも100%賛同しかねる。ハンスはある意味、できすぎのお兄さんで、弟や妹はありがちな不良。アルネは勉強もできて心優しく、そしてか弱い天使のよう。突拍子でもなんでもない人物設定ながら、美しいと感じさせるのは、ひとえに構成と文体の力だろう。私は港町には縁がないし、船舶用語もぴんと来ない。であっても、北ドイツのその場景とハンスとアルネの部屋の様子を自分なりに想像し、絵のように思い浮かべながら、筋を追うことができる。ときどき、それは難しい。ときどき、船の構造や港のあらましがわかっていないと何が起こっているのか理解に苦しむことがある。ときどき、なぜアルネが顔を歪めたのか、アルネはなぜそんな行動に出るのか、なぜ、ハンスはそんなに何もかもわかっているのか、あるいはわかった振りして受けとめているだけなのか、読み取れなくて苦々しい気持ちになる。
しかし小説は、それぐらいわかりにくさを伴うほうが、いい。昨今わかりやすいものが多すぎるので、なおそう思う。
年頭早々にこの本を読み終えて、ああ、こんな仕事がしたいと思った。訳者の松永さんに喝采である。もうすでに著名な翻訳家さんだが、これまで不思議と読んだことがなかった。もう一度訳書を読みたいと思わせる、数少ない訳者さんにまた出会えたという気持ちである。何が素晴しいといって、12歳で一家心中の生き残りという目に遭い、15歳でその生涯を終えてしまうというアルネのことを、可哀想だとは思えないのが素晴しいのである。可哀想なのではなく、ハンスたち一家のそれぞれの心に風穴を空け、そこに、いずれは融ける氷を嵌めていったかのような、アルネのいた三年間はそんなふうにして過ぎ去った、ただそれだけなのである。氷が解ければハンスたちはアルネのことを美しい思い出として語り合うのだろう。読み終えた読者がたった今、美しかったと感じているように。そして、余計なことを加えれば、そのときハンス一家の絆はさらに強まっているのだろう、ということも示唆している(が、それはどうでもよい)。
私の拙い文章では、この小説の何がそんなにいいのかご理解いただけないと思うが、実をいうと絶賛しているのである。ぜひ読んでほしい一冊である。
***
暮れは21日でブログを休んじゃったので、その後の経過をざっと。
12/22 冬至だったので柚子風呂を楽しみました。といっても本物の柚子はもったいないので「柚子風呂入浴剤」なるものを母が買ってきました。香りはイマイチでした(笑)
12/23 一足早くクリスマス。今年はババ母娘ともに余裕がなく、ケーキは市販のシンプルなロールケーキに生クリームを飾り苺を乗せただけ。娘へのクリスマスプレゼントを渡しました(2010年のスケジュール手帳。そんなものをほしがるようになったんですな)
12/24 娘の中学校はインフル休校が祟って25日まで授業。我が社はインフルに祟られてないけどゴリゴリ仕事。だけど娘のセーターが編みあがる!(2年越し!)
12/25 クリスマスの朝。サンタクロースはついに来ませんでした。娘は足を痛めているのでコーチ兄さんに連れられて、夜、医者へ。翌日から合宿なので帰宅後荷物の用意。私は連日の遠方日帰り取材で疲労がピーク。
12/26 娘、2泊3日の合宿へ出発。年内ギリまで営業なのでこの土日で少しでも掃除を進めなきゃと思うがしんどくて、無理。
12/27 上賀茂の手づくり市へ出かけるが、おめあての昆布屋さんや柚子を売ってるお店がなく、ちょっとしょんぼり。でもひいきのタルト屋さんは出てたので木の実のタルトをひとつ買い、ダリ本を持って弟宅へ。
12/28 昨冬パリに帰ってしまった友達のクロディーヌからもらった手袋(おさがり)を愛用していたのだが指先が破れてしまう。ので、手袋編むぞ、と決心する。娘、合宿から帰る。非常に楽しかったようである(笑)
12/29 仕事納め。最後に経営陣から来年度はもっと悪くなるから覚悟しといてねなんて話を聞かされる。冗談でしょう。娘も部活納め。
12/30 愛媛の友達めぐちゃんから今年もまたミカンが届く。わーい! さて大掃除。正月飾りなどの買出し。こたつを出して、ミカンを置いて(笑)家の中が冬の風景に。そのこたつで13年ぶり(!)に年賀状を書く。
12/31 娘はばあちゃんを手伝って重詰め。私は掃除終了(途中だけどやめた。笑)。クロディーヌが十日間の日本旅行に来ているのでカフェで談笑。帰宅して、また商店街へ出かけ葉牡丹を買い、寄せ植えして千代紙と水引で作った飾りを鉢に指す(by娘)。これを、玄関に置いた金屏風の前にセッティング。夜は恒例のおけら詣りに八坂神社へ。少し早かったので火入れから観ることができた。これも恒例の甘納豆を買って帰る。納豆は食べられないけど甘納豆は好きな私。さらに恒例のロンドン焼を母へのお土産に買う。ビデオ録画しておいた紅白を観る。
1/1 町内会の互礼会へ。町内のおっさんたちが集まって飲む元旦恒例の行事。新年の挨拶を一気にやってしまうわけである。今年は役員なので呼ばれちゃいました。いちおう紅一点。午後、初詣にいく。今年は(毎年行き先を変えているのである)娘たち陸上部員がよくトレーニングをしている吉田神社へ。全国大会へいけますように、と彼女は絵馬に書きました。
1/2 届く年賀状を眺めてにやついたり、ミカンを食べて寝転んだり。娘は書き初めに奮闘。夜は大学時代のダチどもと新年会。娘を連れていくがダチどもはR指定お構いなしの大爆走(笑)
1/3 弟一家が来て墓参り。おせちをたらふく食べ、カードゲームボードゲーム百人一首と興じて解散。
1/4 娘は部活始め。私は彼女の帰りを待って、一緒に梅田へ。娘のポワントをいつもとは違う店で試し買い。地下街で娘と何年ぶりかでプリクラ。失敗(爆)
1/5 正月気分もおしまい。数か月前から痛むヒジを診てもらう。また不治の病が増えた。「テニス肘」(爆)。注射をしてもらったが、神経が覚醒したようでなお痛い。慢性化しているのでストレッチして徐々に緩和するしかしょうがないとのこと。
で、今日から娘もガッコ、あたしもカイシャ。いい年になりますように!!!
コメント
_ おさか ― 2010/01/08 09:08:15
_ midi ― 2010/01/08 12:15:14
あけましておめでとうございます。
こちらこそ本年もよろしくお願い申し上げます。
今日から新学期ですか~。
ゆっくりでいいですねー。
>アレ、買いましたよ♪
まあまあまあこれはこれはこれはありがとうございます毎度ありーm(_ _)m
恥ずかしいのであまり真剣に読まないでください。
意味不明てんこもりですが深く追求しないように(笑)
今年もよりいい年にいたしましょうね!!!
本年もよろしくお願い申し上げます
なんだか新年からちょーこ家は忙しいですね(笑
今日からやっと新学期が始まりましたので、久しぶりに誰もいない家の中です
でね
アレ、買いましたよ♪
今手元にあります
まだざっと見ただけですが、よくぞこのような難儀な仕事をやり遂げられたものだとひたすら感心しています
翻訳って大変だよなあ・・・
これから少しずつじっくり読んでいきたいと思います
装丁もなかなか凝っていて、目にも愉しいです♪
いろいろとお疲れ様でした、今年も頑張っていきませう!