美しい男の話をしよう 22007/08/30 19:10:03

ラシッド・タハ。

前回のエントリで、
http://midi.asablo.jp/blog/2007/08/28/1756698

誰もライとかアルジェリアとかに引っかかってくれなかったので(しゃあないか)、しつこく引っ張ることにした。

私をアルジェリアに引っかけたのはフランツ・ファノンである。そのファノンを知ったのはフランス語を学び始めた頃だったから、相当古いお付き合いである。ファノンの存在が、私とフランス、私とアルジェリアの結びつけ方を最初からちょっと心理的に複雑なものにしてしまった。複雑なまま、もつれたままの自分の思考を解きほぐしてすっきりしようとしないまま、早い話が放置したまま、今日に至っている。で、そのことはもう、それでいいのである、もはや。

何も勉強していないので、アルジェリアについて私は何も語れない。また、ライについても同様だ。前回紹介したシェブ・カデールは数曲ヒットを飛ばしたあとすぐいったん引退し、最近復活したらしい。私がライに夢中になり始めたころ、他のシェブさん(シェブという名が多い)はあれどカデールのレコードが見つからなかったのはそのせいだったのだが、カデールのブランクは私のブランクでもあって、私はライについて感覚的なことしかいえない。
けれど、アルジェリアのライについてコンパクトにまとめてらっしゃる場所があるので興味があれば読んでください。
http://www.mayoikata.com/music/04_rai_a.html

さて、話はいきなり飛ぶ。

留学中、滞在していた街で、ベルナール(仮名)とフレデリック(仮名)という二人の青年に出会った。ふたりは幼馴染みだといったが年もわからず二人に年齢差があるのかもわからず、というよりそういう野暮な質問はかの国ではしないのが普通なので訊ねなかったし、私も年は訊かれなかった。あ、かの国というのはフランスです。
見た目はベルナールが目一杯おいしそう(=オトコマエ)だったので、ベルナールに近づこうとしたんだけれど、フレデリックのほうが私に興味をもったらしく電話攻めにしてきたのである(ええ、電話番号教えたんです、下宿先の固定電話よ)。

このフレデリックがなんとむっちゃ「ええ声」の持ち主なのである。超恋愛用言語フランス語をそんないい声で受話器の向こうで囁かれたりしたら、恋愛経験に非常に乏しい私などはへにょへにょとノックアウトされてしまうのである。
かくしてフレデリックと楽しい日々が始まった。
が、いっぽう、ベルナールが気にならなくなったわけではなかった。
ふたりが幼馴染みでなかったら、モラルも節操も何もない私は平気で二股かけただろうが、さすがにそれはできなかった。

留学期間を終えて帰国した。
インターネットもなかった。電子メールも知らなかった(パソコン通信というのがあったと思うが知らなかった)。
だから、フレデリックには手紙を書いた。しかし彼はどうやら筆不精のようだった。やっと来た返事は数行だけで、しかも筆跡は子どもじみていて(だいたいフランス人はみな悪筆だが)、いささか私を幻滅させた。
いっぽう、ベルナールはたくさんたくさん返事を書いてきた。便箋に何枚も。話題はとりとめのないことだった。でも、達筆とはいわないのかもしれないが、「書くのが好き」で「書き慣れた」人の字だった。彼は子どもの頃のこと、日本のマンガやアニメの話、中高生の頃仲間と喧嘩した話など、尽きることなく書いてきた。フランスと日本の間の郵便は、投函してから届くのに1週間かかるが、私が出したらきっちり2週間後に彼からの手紙は届いた。
それよりよけいに間が開くと、次の手紙にはこんなことが書いてあった。

「君の手紙は僕の日常になくてはならなくなっている」
「ぼくは、君を読まずにいられない。君を読みたい」

文章に恋するということがあることを、私がはっきり思い知るのはもっと後のことなんだけど、思えばこれがその最初の経験だったといっていい。
ベルナール本人よりも、彼の手紙に恋をした。それは彼のほうも同じだったのだろう。稚拙な私のフランス語は、読みようによっては可愛げがあったことだろう。

でも、私たちは文通友達以上にはならないまま、何年も時間を過ごす。

あるときフランス旅行を思い立った。懐かしい街の人たちに連絡を取った。インターネットが普及し始めていた。私はしばらく音信不通になっていたベルナールに手紙を書いて、以前のようにあの街に住んでいるなら訪ねるからここにメールをちょうだいと書いた。
返事が来て、私たちはしばしやり取りをし、再会の約束をした。

駅のホームで、ベルナールは待っていた。「おいしそう」と思ったあのときのままだった。目じりの皺が増えて、髪は薄くなっていたけれど。
いろんなことが思い出されて、私は泣きそうになったんだけど、意外と彼は冷静で、「なんか食う?」なんつうしなくてもいい会話をしばし、した。

ラシッド・タハはその頃フランスで売れていた歌手らしい。私は知らなかったが、たぶん君好みの音楽だといってベルナールがCDをくれたのだ。そのジャケ写が冒頭の写真である。そのとおり、タハの歌はすごく好みだった。彼はアルジェリアのオラン出身で、フランスで音楽活動をしている。ライとロックをかけあわせたような小気味よさが気に入った。
もちろん、ベルナールがくれたから気に入ったということもあったんだけど。

私とベルナールは一緒に生きていこうねという約束までするんだけど、お互いの気まぐれから氷山が崩れるようにこの恋はなくなった。いったいなんだったんだろう、あれ。
そして後から気づいたが、タハの容貌はとてもベルナールに似ている。ええおとこです。よかったら、見てやって。
http://rachidtaha.artistes.universalmusic.fr/

コメント

_ ヴァッキーノ ― 2007/08/30 21:07:40

男は目で恋をして
女は耳で恋をする
と言いますが、声のいい男は得ですね。
顔が多少ぶっ壊れてても、かえってシブく見えちゃいます。
フランス人じゃないですが、ボクはカヒミ・カリイの話かたがたまらなく好きです。
女が男に何を求めるか
男が女に何を求めるか
その綱引きがロマンスなんでしょうね。
ちょーこさん、外国人と付き合ったことがあるんですね。
ちなみにボクも名前だけは外国人ぽいですよね。
見た目は完全にジャパーンですけど……あでおすあみーご。

_ マロ ― 2007/08/30 23:04:46

蝶子さんって、恋愛に対する姿勢もなんだか男っぽいですね。
すっきり、さっぱり、分かりやすい。
ちっともドロドロしていない。

この「ええおこと」カテゴリーって、面白い。
もっと、どんどん書いて~。

_ コマンタ ― 2007/08/31 00:52:51

声のいいひとはなんともいえません。
ぼくは道路交通情報を含め、ラジオから聞こえる女性の声の
約5割につかのま恋をしてしまいます。でも声優には恋しない。
タハ、かっこいいね。ちょっと高田純次に似てる?

_ 儚い預言者 ― 2007/08/31 03:48:23

 「うっ」
 「なによ」
 「愛への気球が、いや希求があなたを呼んだ」
 「不思議ね」
 「奇跡だ」
 「あなたはここにいる」
 「おまえもここにいる」
 「あなたをもっと知りたい」
 「永遠より来るひかりの愛の旅立ちだ」
 「いつもね」
 「一緒だ」
 「でもその前に何か食べない」
 「私の存在は反面になっている」
 「どういうこと」
 「私の歌が社会を揺り動かしている」
 「では二人だけの食事にしましょ」
 「しかし愛は真実だ」
 「そうね」
 「怖れる事はない」
 「あの懐かしい場所でランチしよう」
 「あーいいわ」
 「私たちが真実でいる限り、愛は奇跡でない」
 「一緒よ」
 「おまえを愛している、その真実が私を生かすのだ」
 「・・・・・・」
 「世界は二人の愛を認め、輝かしてくれる」
 「大げさね」
 「さあ、行こう」

_ anonymous ― 2007/08/31 08:03:02

ヴァッキーノさん
>男は目で恋をして
>女は耳で恋をする
>と言いますが、声のいい男は得ですね。

声のいい女も得ですね。私は自分の声が大嫌い。
ところで、カヒミ・カリイとは懐かしい名前ですが、今でも活動してるんですか? ふーん。

マロさん
>恋愛に対する姿勢もなんだか男っぽいですね。

姿勢も、の「も」ってなんすか、「も」って(笑)。
ええ男の話には事欠きませんから、ぼちぼち小出しにしながら書きますね。

コマンタさん
>ぼくは道路交通情報を含め、ラジオから聞こえる女性の声の
>約5割につかのま恋をしてしまいます。

あはははは。私もです〜。城達也さーん(ご存じ?)
タハ、かっこいいでしょ! サイト内の「photos」のとこ、見てくれました? 渋みが増して、ええ感じですう〜。
私は高田純ちゃんも大好きです、そういえば。

預言者さま
ハハ、それは「しなくてもいい会話」を再現してくださったんですね。その会話は赤面ですよー。
実際はどんな話をしたかあまり覚えてませんね。到着直後なんで、列車の中で乗り合わせた乗客のこととか、その前にいたパリで何をしていたか、とか、だったかな?

_ midi ― 2007/08/31 08:03:51

↑ あら失礼、私です。

_ おさか ― 2007/08/31 09:41:41

きゃー♪
声に恋する、てのはよく聞きますが、文章に恋するってのは私には斬新でした。ステキー♪
ネット環境での関係に似ているのかな、もしかして。

ところで本当にちょーこさんの好みはまんま「色男」系ですねー。しかもなよなよしてるんじゃなく、ぴりっと野性味のある。
私とは好みがかぶらないみたいです。良かった(って何が)。

_ よっぱ ― 2007/08/31 12:19:10

うーん、恐るべし、ちょーこさま
いいなぁ、書きたがり♪もっと書いて~~

_ midi ― 2007/08/31 12:19:49

おさかさん
>文章に恋するってのは私には斬新でした。

ここ数年、文章にしか恋していないかもしれない、と思う私です。

_ midi ― 2007/08/31 13:40:46

あれ、よっぱさんとすれ違ってましたね。
うんうん、もっと書くよ~♪

_ mukamuka72002 ― 2007/08/31 15:56:24

恋の話っていいですね。
思わずうっとりしますぅ、
僕も書きたくてウズウズしてますけどぉ、
実在の関係者各位が死にたえた60年後あたりまで我慢。
もしくはひとおもいにみんな殺してスッキリするかぁー。

♪オーッ、ポナケヤン、セテシボォン、シデディヤンモロション?
(嗚呼、貴女はなんと甘みで爽やかな酸味もある声なのだろう?)

_ midi ― 2007/08/31 17:38:26

>僕も書きたくてウズウズしてますけどぉ

もうずいぶん書いてきたのではないですか?
それともまだまだある?
書いて書いて~♪

_ おさか ― 2007/08/31 19:41:20

ちょーこさん、
恋バナじゃないけど、mukaさんちに書いちゃった♪
ごめんね、でも楽しかったわ~

_ midi ― 2007/08/31 20:57:53

読んだよ♪
私たち、会わなくちゃいけないわね。
でないとお互いに妄想がエスカレートしそうだよ(笑)

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