姑息で愚かでノータリンな文部科学省2010/08/01 23:54:49

先日、育児関係の小冊子の編集にかかわることで、現在の保育所待機児童数について役所に問い合わせをした。回答は想像していたとおり、少子化傾向に歯止めはかかっていない、子どもの総数は減る一方なんだが、両親共に働く家庭は周知のとおり増加しているし、またひとり親家庭も増えているので、保育所またはそれに準ずる託児施設への入所希望は増える一方である、ということだった。それでも、取材先の自治体はかなり努力をしており、入所希望児童全体に対する待機児童の割合は全国比でいくとずいぶん小さいそうである。待たなければならないのは一刻も早く働きたい保護者にとって辛いが、他の自治体に比べればまだ恵まれているのだということだった。ふうん。ただ、回答してくれた担当役人さんはこう言った。
「幼稚園は定員割れしてましてね。幼稚園によっては、事態は深刻なんです。もっと幼稚園という選択肢が検討されれば、待機児童数も変わってくるんですがね。現状では無理ですねえ」

朝ゆっくり始まって昼過ぎにはもう終わる幼稚園なんて、フルタイムで働く人々には、そんなの検討どころか俎上にも載りはしない。延長保育や、あるいはユニークな教育内容とかで付加価値を高めて、なんとか子どもを集める努力をしている幼稚園もあるだろう。しかし、いずれにしてもフルタイムで働く人の場合、通常会社に最短でも8時間拘束される。通勤時間等を加味すると、合計で10時間くらい子どもを預けられる保証がないと日々回っていかない。保育所はそれを可能にしてくれるが、幼稚園では無理である。よほど、「ここでなければ私の子どもを託すことはできない」と思わせてくれるほど、保育あるいは教育環境が整っていなければ、幼稚園の存在価値は、少なくとも私みたいな人間には、ゼロである。

私は幸運なことに家から近い場所に夜間部も併設している民間保育園があり、申し込みをしたときは定員オーバーと言われたが、年度末に空きが出て入所が叶った。よかった。助かった。私の父母はまだ現役で染めの仕事をしていたし、寝てばかりいる赤子のときはよかったが、ちょこまか歩き始めた子を常時見張ることは無理だった。
こうして、まだ1歳の娘を午前中から夜まで10〜12時間預けていた。保育士さんには、ちゃんと見ててくれること、しっかり遊んでくれること、食事について報告してくれること、これ以外に何も求めるつもりはなかった。日本の場合、どこへ預けても、この三つがしっかりされてれば御の字だと思っていた。

フランスに滞在していた頃、フランスの教育機関で最も優れているのは幼稚園である、と聞いた。間借りしていたアパートの若い夫婦もそう言ったし、大学の教員たちもそう言った。幼稚園は仏語でエコール・マテルネルといい、日本の小学校にあたるエコール・プリメールに入学する前の3年間を過ごす。なぜエコール・マテルネルが素晴しいと言われるかというと、エコール・マテルネルの職員は保育・幼児教育のプロ中のプロだからだ。私は日本の保育士資格、幼稚園教諭資格について取得条件等何も知らないが、私が学生の頃は、たいして意欲も志もない女子が「短大行って保母さんでもちょこっとやってお嫁にいくわ」などと発言することは何ら珍しくなく、また許されたものだったので、保母さんてそういうふうになれるもんだと思っていたもんである。現在はどうか知りません、ごめんなさい。
しかしフランスでは高卒後2年程度では保育の現場に行くことは許されない。エコール・マテルネルの教員であるということは児童心理学、児童教育学の学位を持っていることを意味すると聞いた(と記憶しているけどもう定かじゃないです。ごめんなさい)。また、教員の他に、保育を担う職員が担任としてつく。彼らの場合は保育士資格と同時に看護師資格も求められると聞いた(と記憶しているけどもう定かじゃないです。ごめんなさい)。ひとつのクラスに少なくとも二人以上の担任がつき、それぞれが磨き上げた自分の専門性を発揮して職務を遂行するということになっている。こうした制度はもう伝統的なもので、国全体が支持しているものなのだ。だからフランスでは幼稚園はいつもどこでも定員満杯である。公教育なので食事以外は無料だし。
幼稚園は4時半まで授業を行い、その後は6時か7時までの託児施設となり、保育が必要な幼児たちだけが残る、というしくみ。もちろん、職員は交代。
そんな話を聞いていたこともあって、理想的なそのフランスの幼児教育はうらやましかったが、といってそれと同じクオリティを日本の幼児教育機関に求める気持ちはさらさらなかった。実践している私立はあっても公立はないだろうし、近いところの私立をざっと見回しても、英語を導入したり、識字教育をしたりと、ちょっと違うというのか小手先の「売り」でしかないような、母親の気を惹くキャッチで特徴をアピールする幼稚園くらいしかなかった。何度か書いたことがあるが乳幼児にそんなもんは不要というのが私の信念だし、どのみち幼稚園は眼中になかったけど。

話が逸れてしまった。何が言いたいかというと、このままでは幼稚園に未来はないかもよ、ということなのである。だって、幼稚園の「お上」は文部科学省である。最近の彼らの言動、関心のあるかたは報道でご存じだと思うけど、小学生と中学生に実施される学力テストの正答率を分析して、こんな公式見解を出したのだ。ご丁寧にグラフ付きで。

「幼稚園出身の児童生徒のほうが保育所その他の出身の児童生徒に比べて正答率が高い」

世の中のお父さん、お母さん、子どもは文科省管轄の幼稚園に入園させましょうね。厚労省管轄の保育所やモグリの託児所では、子どもがアホになりますよ。お勉強のできるいい子にするためにも、幼児期には幼稚園っきゃないですよ、そこんとこドーゾよろしく!

……と言っているようにしか読めない公式見解だった。

「幼稚園出身の児童生徒のほうが保育所その他の出身の児童生徒に比べて正答率が高い」

いま、小中学校の現場の教員が児童生徒の学力定着と向上のために試行錯誤しながら日夜努力して(いない学校もあるかもしれないけど、幸い私のかかわるところは先生方みなさん必死で頑張って)いるというのに。全国学力テストはその成果や課題発見の材料であるだろうに。

「幼稚園出身の児童生徒のほうが保育所その他の出身の児童生徒に比べて正答率が高い」

そんな分析をして、いったい何の役に立てようというのだろう? いや、分析は多方面からどんどんなさればよいであろう、家庭環境や親の収入や、通学時間などあらゆる側面から学力を測っておられるようなので、その一環として、就学前どこにいたかということは重要な要素であるやもしれぬからのう。
でも、これって、学テの結果報道と同時に大々的に発表するような項目か? 

ほーらご覧ください。統計が証明してるでしょ、賢い子は幼稚園でないと育ちませんよ、幼稚園に入れましょう。聞いてますか、お父さん、お母さん! さ、幼稚園入園願書を用意して! 厚労省管轄の保育所では、だ・め・で・す・よ!

どうしてどいつもこいつも相手をけなして優位に立とうとするのだろう? この参院選の街頭演説の内容もほとんどそうだった。

どうして、相手のよさを認めた上で、それでも負けない自分とこの優れた利点を主張しようとしないのだろう? 
文科省がすべきは、もう何年も前に幼児期を終えた小中学生の正答率を云々して幼稚園に行ったほうが賢いやんと見せびらかすことではなくて、現在、子どもが集まらずに困惑・困窮している幼稚園に適切な支援や指導をすることだろう。
北欧のモデルを真似っこするのが流行っているようだけど、四季の変化に乏しい北の果てで生活する人間と同じ理屈で温帯モンスーン気候に住む人間を教育できるはずがないではないか。フランスの例を引いといていうのもなんだが、かの国とでさえ、日本は子どものしつけと教育にかんする考えかたは大きく異なるし、社会体制もその歴史も異なる。だから真似するのは無理である。
そうじゃなくて、子どもを持った親に、ちゃんと幼稚園に入れなくちゃ、そういわせるような幼稚園を、日本人の知恵で創ること。文科省がすべきはそういうことじゃないのか。

コメント

_ おさか ― 2010/08/03 09:18:43

おはようございます♪

うちは子ども三人とも幼稚園年少から三年保育で行かせましたざぁますよ、だから勉強では何も苦労ないわおほほほほ

・・・・んなわけないやろっ(怒)。

特に三人が行っていた幼稚園は自由保育(=野放し)というやつで、鼓笛隊とか英会話とかコジャレたものは一切習うこともなく、泥団子とか新聞紙の剣とかの作り方くらいですかね。あ、書き方教室みたいなのは行ったな。別料金だけど。

あの記事は私も読みましたが、何だかやな感じの論調でしたね。保育園組の人はもちろん、「教育熱心で余裕な親」とひとくくりにされる幼稚園組もたまったものではありません。保育園に入れなくて泣く泣くって人もいるし、そもそも働くにも働けない人だっているんだぞ(怒)。

だいたい保育園か幼稚園かなんて、内申書や履歴書に書くわけでもあるまいに、何でそんなことを今問題にせねばならんのか。
待機児童をこれで減らそうともくろんでいるのか?とまで邪推してしまいますね。

_ midi ― 2010/08/03 23:04:25

おさかさん、朝からありがとうね。

>履歴書に書くわけでもあるまいに

はははっ ほんとですよね。いや、わかりませんよ今後は。面接で「ははーん君の出身幼稚園は○○園ですかふむふむ」とか、あるいは「保育園出身なの? 学校入ってからいろいろ困らなかった? 克服したんだね、偉いねえ」とポイント上げたりとか(笑)

いまの母親たちが思うことって「とにかくちゃんと預かってくれたらそれでいい」ってことに尽きると思うんですね。教育方針や育児理念とか二の次。自分がクリスチャンでもお寺の園に預けないといかんようなケースもあるだろうし。もちろん「方針」や「精神」「理念」を重んじて園を選ぶ親だっているし、それはそれでよいのであって、そういう傾向が極端になると待機児童問題とはたいへん遠いご家庭、ということになるのでそちらはこの際放っておいたらよいのである、やん。普通の一般的な親は、安全なとこで見ててくれたらそれでいいと思ってるやん。だから幼保一元化とかの議論もあるわけやんか。
要は、たぶんさ、文科省は厚労省と一緒くたにされたくないんよねーきっと。「教育と福祉を同じ次元で論じてはいけない」とかもっともらしいことをいうのよ、きっと。

>泥団子

娘が保育園の頃、泥団子に夢中になって、小学校3年くらいまでマイブームが続いてましたね(笑)いかにつるつるにするかって、私までインターネットで調べて必死になってました。どろんこ遊び、子どもは大好きですよね。

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