あなたに借りたパワーオブナウも読み終えていないのに2010/11/11 19:48:35

先月の終わり、髪を切った。やっと切ったぜーーーすっとしたあーーーと天に向かって叫びたくなるくらい、爽快だった。行きつけの美容室の店長は「僕嫌われたんかなあって思てましたよぉ」と泣き真似をして見せてくれたが、ホントは夏前に行きたかったのに行けず、本格的に暑くなってからは、中途半端に切るよりも束ねたほうが首筋や肩が鬱陶しくないのでけっきょく切るタイミングを逸してしまっていた。それに8月以降はほとんど休日に取材や打ち合わせや原稿書きが入っちゃってまとまった時間休めない状態だった。頑張れるようでも、そんな生活は続かない。必ずガソリンは切れる。私のからだはエネルギーの泉ではないのだ。本当のことを言えば、先月の最後の土日も休んでいる場合ではなかったんだけど、もうアタマもカラダも悲鳴をあげていて、思考することが不可能になっていた。こうなるともう、ふっと気を緩めるとその瞬間にばたっと倒れてガーガーゴーゴー寝てしまうに違いないのである。「お母さん、この土日も仕事?」「ううん。もう行かへん。絶対休む。でないと死ぬ」「どうするの、寝てんの?」「起きるよ。朝ごはんもつくるし洗濯もするよ。長いこと掃除もしてへんし。でもあんまり考えなあかんことはもうしーひん」「髪の毛は?」「あっ! そうやん! 切る切る絶対切る」……とそんな会話をしておきながら、美容室への電話一本がかけられなくて、土曜日になってからやっと「今日いけます?」なんて予約コールをした私。「担当はどの者でしょうか」「店長さんです」「申し訳ありません。本日は終日予約がつまっております」「やっぱりそうですかー」「明日ではいけませんか?」「明日なら何時が空いてるんですか?」「○時と□時に空きがあります」「んんーほな□時でお願いします」「かしこまりました」というわけでけっきょく日曜日の夕方、重たい毛足の長い絨毯のようになった頭をすっきりさせに、美容室へ足を運んだ。ひどい雨の日だった。その日の朝、母と娘と、ついでに猫も一緒に出かけたのだが(なぜそんなにみんなして出かけたかというと♪すみずみまで効く♪●●●●に▲▲サン♪というCMソングでおなじみのアレを焚いたからである)、出かけた先で私は傘を買った。数日前に愛用の傘の骨が折れてしまったからだ。どうにも変な折れ方をして、差せないことはなかったが、折れた骨が顔の位置でぶらぶらするようになってしまって、しかも畳むときにつっかえるようになってしまって、お払い箱にするには惜しいながらやはりもう使えないと断じて新しいものを買うことにしたのだ。もともと傘にハイクオリティなんぞ求めないのだが、久しぶりに傘選びも楽しいかもと思って手当たり次第に差してやっと決めた大きな傘は、黒地に紅色のドット模様。ところが、そろそろ帰ろうかという時間になって雨が降り出した。なんだよもう。私は買ったばかりの傘の包装を解き、母と母のカートの上の猫のケージが濡れないように、母のカートの傘取り付け棒に傘をはめて締めた。真ん中に母を、両側に私と娘が並んだ。大きな傘なので、私も娘もまったく濡れなかったとは言わないが、けっこう凌ぐことができた。夕方になって雨足はどんどん強くなり、美容室へ出かける時間は土砂降りもいいとこだった。私は新しい大きな傘を差して歩いて出かけた。大きな傘はいい。私の広い肩幅もカバーしてくれる。さて、美容室では長さだけでも軽く25cmくらいの髪を切った。その上、私は髪の量が多いので放置していると自動二輪を駆るにいさんのヘルメットみたいになる。今回も長さがなかったらヘルメットだった。それを、普通の女性のアタマ並みに梳いてもらう。常時ヘルメット状態から解放だ。ご想像いただけるであろうがかなり爽快である。この店では施術後に肩腕背中(上部)のマッサージをしてくれるのでありがたい。頭の芯から上半身すっきりして生き返った気分である。金曜の夜中までの自分をこの土日も継続していたら、きっと、いまや国際語として認知されている「カローシ」という目に遭っていたに違いない。ああよかった。無理やり休んで。でも休んだせいで、翌月曜の朝イチにアップしなくてはならなかった制作物は当然できなかったし、引っ張っちゃって仕上がったのは夜の7時だった。得意先に叱られて平謝り。平謝りしたけどあたしは全然悪かったと思ってなくて、命削らず生き延びたことのほうを喜んだのさ。ま、そんなことでつかの間の深呼吸を、私のココロもカラダもアタマも頭皮も、たっぷりさせてもらったさ。髪を切るといつも口をついて出る昔の流行り歌……♪わたし髪を切りました♪ グレープの「追伸」だ。撫子の花が咲きました/芙蓉の花は枯れたけど/あなたがとても無口になった秋に/怖くて私訊けませんでした/あなたの指の白い包帯/上手に巻いてくれたのは誰でしょう/風に頼んでも無駄ですか/振り返るのは嫌いですか/どこにもあるようなことですか/わたし髪を切りました……たとえば今日のあなたのこと/ほかのひとと楽しそうに笑ってた/あなたの声がまぶしくて/耳を塞ぎました/下手なくせにあなたのために/編みかけた白いベスト/やはり夢でした、ほどき始めましょう/あなたに借りた鴎外も読み終えていないのに/最後のわがままです、あなたの肩幅教えてください……。最後のフレーズ、あなたの肩幅教えてください、で笑うのは私だけ? 絶対、これ、オチだよね。肩幅教えて、っていわれてああ、●●センチだよって答えられる人、どれくらいいるかなあとも思うしさ(笑)。ま、いいさ。わたし髪を切りました。どう、私に会いたくなったでしょ?

コメント

_ 儚い預言者 ― 2010/11/13 18:24:37

 あなたをハグして幾歳月。なんちゃってーー。
 また皆(文章塾生)で会いたいねーー。

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