LIBERTÉ2011/08/01 20:06:08

大学ノートに
教室の机に 樹々の幹に
砂に 雪に
ぼくは君の名を書く

読み終えたすべてのページに
何も書かれぬすべての白いページに
石に 皿に 紙に そして灰にも
ぼくは君の名を書く

金彩の絵画に
戦士が抱える武器に
王らの冠に
ぼくは君の名を書く

ジャングルに 砂漠に
巣に エニシダに
わが幼き日のこだまに
ぼくは君の名を書く

夜ごとの不思議に
昼の白いパンに
結びつながれた季節に
ぼくは君の名を書く

青空の記憶の断片に
金色に輝く黴臭い池の水面(みなも)に
月が生きて映る湖面に
ぼくは君の名を書く

夜明けの風のひと吹きごとに
海の上に 船の上に
とてつもない山の頂にも
ぼくは君の名を書く

苔むす雲に
汗かく嵐に
降り止まぬ鬱陶しい長雨に
ぼくは君の名を書く

きらめくものかげに
多彩色の鐘に
肉体的な真実に
ぼくは君の名を書く

目覚めたあぜ道に
拡げられた街道に
はみ出す広場の数々に
ぼくは君の名を書く

灯もるランプに
消えるランプに
集まったぼくの家々に
ぼくは君の名を書く

鏡に映したように二分された
果物と 貝殻の形した
ぼくの部屋のぼくの寝床に
ぼくは君の名を書く

食いしん坊で優しいぼくの犬に
ぴんと立ったこいつの耳に
よたついたこいつの肢(あし)に
ぼくは君の名を書く

玄関のバネ戸に
慣れ親しんだものたちに
祝福の流し灯籠に
ぼくは君の名を書く

さし出された肉体に
友のいる戦線に
差し伸べられたそれぞれの手に
ぼくは君の名を書く

マネキンだらけのショーウインドー
注意深そうな唇
だんまりのその向こうに
ぼくは君の名を書く

壊されたぼくの避難所に
崩れたぼくの灯台に
憂鬱の壁のあちこちにも
ぼくは君の名を書く

欲望のない不在に
剥きだしの孤独に
死の階段に
ぼくは君の名を書く

取り戻した健康に
消え去った危険に
記憶のない希望に
ぼくは君の名を書く

たったひとつの言葉のちからで
ぼくは人生をやり直す
君を知るために ぼくは生まれた
君を名づけるために

「自由」。



(自由/ポール・エリュアール Liberté / Paul Éluard)
※書かれたのは1942-1943とされる。


ポール・エリュアールはフランスの詩人。
Paul Éluard, poète français (1895 – 1952)


原文はコレ。
いろんな人が訳しているようだけど、原詩を読むべし。
今日、初めて、私の言葉にしてみたくなった。
拙訳を読んでくれてありがとう。
だけど、原詩を読むべし。



Liberté


Sur mes cahiers d’écolier
Sur mon pupitre et les arbres
Sur le sable sur la neige
J’écris ton nom

Sur toutes les pages lues
Sur toutes les pages blanches
Pierre sang papier ou cendre
J’écris ton nom

Sur les images dorées
Sur les armes des guerriers
Sur la couronne des rois
J’écris ton nom

Sur la jungle et le désert
Sur les nids sur les genêts
Sur l’écho de mon enfance
J’écris ton nom

Sur les merveilles des nuits
Sur le pain blanc des journées
Sur les saisons fiancées
J’écris ton nom

Sur tous mes chiffons d’azur
Sur l’étang soleil moisi
Sur le lac lune vivante
J’écris ton nom

Sur les champs sur l’horizon
Sur les ailes des oiseaux
Et sur le moulin des ombres
J’écris ton nom

Sur chaque bouffée d’aurore
Sur la mer sur les bateaux
Sur la montagne démente
J’écris ton nom

Sur la mousse des nuages
Sur les sueurs de l’orage
Sur la pluie épaisse et fade
J’écris ton nom

Sur les formes scintillantes
Sur les cloches des couleurs
Sur la vérité physique
J’écris ton nom

Sur les sentiers éveillés
Sur les routes déployées
Sur les places qui débordent
J’écris ton nom

Sur la lampe qui s’allume
Sur la lampe qui s’éteint
Sur mes maisons réunies
J’écris ton nom

Sur le fruit coupé en deux
Du miroir et de ma chambre
Sur mon lit coquille vide
J’écris ton nom

Sur mon chien gourmand et tendre
Sur ses oreilles dressées
Sur sa patte maladroite
J’écris ton nom

Sur le tremplin de ma porte
Sur les objets familiers
Sur le flot du feu béni
J’écris ton nom

Sur toute chair accordée
Sur le front de mes amis
Sur chaque main qui se tend
J’écris ton nom

Sur la vitre des surprises
Sur les lèvres attentives
Bien au-dessus du silence
J’écris ton nom

Sur mes refuges détruits
Sur mes phares écroulés
Sur les murs de mon ennui
J’écris ton nom

Sur l’absence sans désirs
Sur la solitude nue
Sur les marches de la mort
J’écris ton nom

Sur la santé revenue
Sur le risque disparu
Sur l’espoir sans souvenir
J’écris ton nom

Et par le pouvoir d’un mot
Je recommence ma vie
Je suis né pour te connaître
Pour te nommer

Liberté.

コメント

_ 儚い預言者 ― 2011/08/03 12:52:09

あなたは歩む
ひとり
ひとつ
とても大事な
とても抱えきれない
あなたは歩む

あなたは佇む
ひとり
ひとつ
とても不可思議な
とても言葉にできない
あなたは佇む

あなたは微笑む
ひとり
ひとつ
とても微妙な
とても愛さずにはいられない
あなたは微笑む

あなたは歩む
ひとり
ひとつ
愛と光の夢を
自由とは対比の向う
それはいつも心にあることを
あなたは歩む

愛はあなた
光のあなた

_ きのめ ― 2011/08/03 19:54:48

今年、「ボルヘス、文学を語る―詩的なるものをめぐって」を読みました。もちろん日本語訳ですけど。
ボルヘスという詩人の言葉に対する思いが、たっぷり詰まってました。
フランス語はまったくわかりませんが、蝶子さんが「だけど、原詩を読むべし。」というところは、ボルヘスのおかげでよくわかります。

フランス語を母国語にしている人でもPaul Éluardの感性がわからない人もいるでしょう。
でも、この詩を目にした・耳にした蝶子さんの感性を、心のさざなみをわたしは蝶子さんの日本語で愉しむことができます。
だからこそ、芸術って素晴らしい。
伝えるって、むずかしいけど。だからこそ素晴らしい。

_ midi ― 2011/08/04 10:26:33

預言者さま 毎度おおきに。
きのめさま ご無沙汰です、ご来訪ありがとう。

エリュアールの詩は、これしか読んだことがありません。でもこのたった一篇の詩で、ポール・エリュアールの名はずっと薄れることなく記憶されていたんですね。で、あるときこの名に再会してどへっと思ったことがありました。エリュアールは、ダリの妻・ガラの元夫だったんです。ダリはエリュアール夫妻と会い、反戦の詩人・エリュアールに大きな影響を受け、でもその妻をちゃっかりもらっちゃったんですね(笑)。
ダリの本を仕事をする前から、この有名人の有名な人生におけるここら辺のよく知られたエピソードについては私も知っていたはずなのですが、どうしてだか、この詩と、かつてガラの夫だった男とは、結びついていなかったの。

この詩の最初の12行がとくに好きです。胸の奥がぶるぶるっとふるえます。声に出して読んでみるんです。スュラクロンヌデロワ、のあたりで、ふるえる胸の奥を屈強な掌でがしっとつかまれる感じで痛みます。

たぶん、私の訳は正確ではありません。本当は何を言いたかったのか、石や皿や冠は何の比喩なのか、それはエリュアールに尋ねないとわからない。仮にわかったところで、日本語にした時点で詩はとても陳腐になる。それは、フランス語は崇高で日本語は陳腐だということではなく、またエリュアールの言葉は優れていて私の翻訳力が拙いということでもない。そうではなくて、詩はエリュアール自身そのものであり他のなにものにも代えられない唯一無二のものであるからです。1940年代にフランスが経験した戦争、圧政、虐殺、抵抗の空気を吸って生きていた人々があちこちに刻んだ言葉の数々は、そこに居なかった者には、あたりまえのことですけど代弁不可能です。たしかにこの時代、どの国も辛かった。だから、それじゃあ戦時下を生きた日本人なら代弁できるんじゃないか、と考えがちですけど、やはりそうではないです。

でも、きのめさんがおっしゃったように、現代の日本に生きる私が私なりの受け止めかたで自分の言葉にしてみたこの詩を、それぞれがそれぞれの感性で租借し味わってくださることはそんなに悪くないことだとも、思うのです。

_ midi ― 2011/08/04 18:17:56

>それぞれがそれぞれの感性で租借し味わってくださること

それぞれがそれぞれの感性で咀嚼し味わってくださること

皆さんお気づきと思いますが訂正いたします……

_ コマンタ ― 2011/08/12 00:19:12

ぼくはぼくの自由をみせられない
詩的じゃないから

なんちゃって~~

佳い詩ですね。
原文で読ませていただきます。

_ midi ― 2011/08/12 21:59:10

コマンタさん
おひさ~

リベルテ、という語感も好きですよね。
思うところ、あるので投稿しますね。

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