耳を、澄ます その32007/01/16 09:09:32

『超・ハーモニー』
魚住直子著
講談社(1997年)


『非・バランス』がとてもよかったので第2作も読んだ。
タイトルは第1作を意識し過ぎじゃないかと思える。
不協和音が美しい和音になったその先を暗示したタイトルで、よくできているといえなくもないが、私は古い人間なのか「超」という表現があまり好きではない。

主人公の兄がいう。
「音をひろってるんだよ」
散歩していると、赤ん坊をあやす声や、包丁で野菜を切る音や、夫婦喧嘩らしき諍いや、ドアが開いたり閉まったりする音が、よく耳を澄ますと聞こえてくるよ、という。
ふうん、と弟は興味なさそうに聞いている。
「この家にもいろんな音がある」と兄はいう。
ドアのきしみ、すきま風。
主人公である弟は、両親と自分との間に亀裂が入り始めているのを感じている。それを、久しぶりに実家へ帰った兄に指摘されたように思えて、どきりとする。

物語は、よくできるイイ子を持つ家庭が陥りがちな親子間のコミュニケーション不足を描いている。家庭には訳ありの兄、学校には斜視で太った冴えないクラスメートを配し、彼らとの接触で主人公が成長していく。

私は兄のこの言葉がとても気に入った。

音をひろう。

彼は音をひろってそこからイマジネーションを広げて作曲する。そんな真似はできないが、音をひろって想像することはできそうだ。耳を澄まし、耳に届くものに思いを馳せることはできそうだ。
そんなことを教えたくて、去年この本を娘に読み聞かせた。お話はとても気に入ったようだ。主人公の兄をとても素敵な人物だと感じてくれたようだ。
そしてそれ以来、彼女はなんとかやっくんという名前のタレントが気になってしょうがないらしい。