世界一美しいブタさん ― 2007/06/07 19:23:24
太田大八 作
こぐま社(1995年)
太田大八さんは1918年生まれなのだそうだ。ということは来年には90歳になられる。
すごいなあ。そんなにお歳を召していて、少年の瞳にしか映らないような、太陽のひかりをいっぱい浴びたキラキラ輝く世界を描くんだ。
そういえばピカソも。きっと画家のかたがたは、瞳が老化しないのね。あるいは瞳だけが実年齢を逆行しているとか。だって、若くして老練な描写力があったからこそ絵を描いてこれたのだろうし。大人のような絵を描いていた子どもが大人になって子どものような絵を描く。そういうことなのだ。
太田さんの絵の魅力はなんといっても色づかい。
たぶんアクリルかガッシュがメイン、クレパスや色鉛筆で描き足し、ときに布や印刷物をコラージュしたりも。太田さんのタッチで好きなのは、たぶん竹ペンか硝子ペンで描いた線画に淡い色彩を置いていく描きかた。『世界でいちばん やかましい音』 でメインになっていた技法だ。
『ブータン』には、その技法は脇役にまわっているけれども。
「ブータン」はブタの名前。農家のベンさんは「やさいくらべ大会」にかぼちゃを出品し、大賞をもらった。そのごほうびにこぶたをもらった。
ベンさんは大事にこぶたを育て、大きくなったら食べようなんてことは露とも考えず、ブータンと名づけて家族のように大事に育て、世話をして、畑の仕事もさせた。
ブータンはどんどん大きくなって、馬より牛より大きくなって、村の名物ブタになり、やがて新聞に載り、テレビで紹介され……。
さらし者にされるブータンを、ベンさんは懸命に守る。
周りの人間が「豚」「豚肉」としか見ない動物は、ベンさんにとって大事な大事な宝物だから。
温厚なベンさんの表情がくもり、やがて怒りを爆発させるときがある。
村で平穏に暮らしているときの表情との対比が見事。
その横で、ブータンはいつもにこやかで安らかで、何も心配していませんことよとベンさんに微笑みかけるようでもあり、ずいぶんにぎやかですけど何かありましてと最初から何もわかっていないようでもある。
ブタを題材にした絵本は多いけれど、「ブータン」ほど美しいブタをほかには知らない。あのブタがそんなに大きくなったらさぞかし醜かろうに、目障りだろうにと思わなくもないんだけど、ブータンは物語の最初から最後まで素朴で美しい。大事にされてるので野性味はない。おとなしい毛並みのいい猫のようで、猫ほど心中に企みを持っていそうにない。純真無垢。そう、ブータンは純真無垢だ。
ベンさんはブータンのほっぺたをなでて、身体をさすってやりながら「おうちにかえるよ」と声をかける。アホかお前はといわれるかもしれないが、私はここで涙が出そうになった。
この物語は、自然の一要素として発生したに過ぎないはずの人間がいかに身勝手で驕り高ぶっているか、も描いている。私たちは、アホだ。
ところで、純真無垢って、誰かを形容するのに使ったような記憶が……。
コメント
_ mukamuka72002 ― 2007/06/08 18:52:57
_ おさか ― 2007/06/08 19:41:56
ところで太田 大八さん、聞いたことがある絶対どっかで・・・と思い「ブータン」で検索したら出るわ出るわ、・・・・国のブータン。
名前で検索したら、出ました~、はなたれ小僧さま。この絵、図書館でいっぱい見た! さすがちょーこさん、目の付け所が違いまするっ
こういう感じの絵って、頭に残りますよね。話は忘れても絵は覚えてたり。そういう本、私にもあります。
_ midi ― 2007/06/08 23:19:33
苫小牧からのお手紙ありがとう。あなたの瞳はいつだってキラキラしているわよ。きっと瞳だけが少年の記憶を失っていないのね。そんなあなたのハートはきっとパンツのなかに埋もれたまま。そっとしておいたほうがいいかもね。
おさかさん
毎度おおきに!
国の「ブータン」もすごく興味のある国。いつか行こうねと娘と話してますがいつのことやら。でも国のブータンの名を覚えたのもこの本の『ブータン』のおかげ。
「えほん大好き」って名のサイトに、太田大八さんのWEB絵本が載っていて、音声つきで楽しめます。そこにもブータン出てきます。国じゃなくて、ブタ。
天才って云われる人の瞳って、凄い力がみなぎってますね。
それは人並み外れた情熱、好奇心からくるものかなと考えてます。
岡本太郎さんや棟方志功の瞳に狂気を感じてましたが、
それは純粋無垢な激しい情熱と好奇心の故なのでしょうね。
僕もさっき洗面所の鏡にキラキラとワザと瞳を輝かせてみました。
下心満杯の単なる助平おやじが色目を使っているだけでした、バタリ。
なろうと思ってなれるものじゃないんですね、ポツリ。
しかし、シンプルな話なのに、そんなに人を魅了し、感動させる。
やっぱり、創作はハートですね、これから自分の心の中に埋もれたハートを捜索してきます。
捜さないでください。
苫小牧にて、muka太郎、吉日