賞味期限のごまかしを云々する前に ― 2008/01/30 20:19:06
アサツーディ・ケイ200Xファミリーデザイン室
岩村暢子著
新潮社(2007年)
ずいぶん前に図書館に予約リクエストを入れておいた本だけど、暮れになってようやく私の手許に来てくれた。
面白すぎる。
もう抱腹絶倒。
なぜそんなに面白いかといえば、本書はまさに「よそさまを覗き見している」気分を大いに味わえるからである。不謹慎だけれど、本来人間は覗き見が好きであるからして、よそさまの家のご様子がよくわかる本書は非常に愉快なのである。
といっても、本書はそのように不謹慎で不真面目で不遜な書物ではけっしてない。
よそさまを覗き見する気分で本書を読み進みながら、私たちは我に返る。
「え、これ、どっかで聞いた話よねえ」
「う、これ、なんだかウチとそっくりじゃん」
「げ、これ、あたしのいつもの台詞じゃん」
「ぐ、これ、もしかして……」
もしかすると、ではなく、間違いなく本書が語っているのは「私たちのこと」なのである。現代の子育て世代の食卓がいかに貧相なものであるか。各家庭の経済事情でやむなく貧相な食生活に陥っているのではなく、いかに積極的に「貧しい食」へ突き進んでいることか。自分たちの食卓がこんなにも貧しいことに、いかに無頓着でいることか。
岩村さんの前著にはすでに触れたけど。
http://midi.asablo.jp/blog/2007/12/26/2530974
前著は、私たちの母親世代のことが主に述べられていた。読み方はひとぞれぞれだけど、私の場合、「なんでウチの母ちゃんてばいつもああなんだろう」と何かにつけて感じていたことの幾つかは、謎が解けたように思えた。それは、だからといって母と娘の相互理解が進むとか、文化風俗慣習の継承を促すとか、そんなことにはけっしていきなりつながらない。母は母のまま、私は私のままだ。だけど、私の場合(なんどもいうけど)、ちょっぴり母に優しくなれそうに思った分だけ、岩村さんの本を読んだ甲斐は確かにあったのである。
で、今回の『普通の家族……』だが。
前著でおせち料理の家庭内継承について多少述べていた岩村さんは、本書では「クリスマス」と「お正月」に的を絞って現役子育て世帯を対象に実施した調査結果をレポートしている。この二大イベントは、日本の普通の家庭ではいったいどのように過ごされているか……たぶん、私と同じような世代の人たちにはだいたい想像がつくであろう。それはもちろん「クリスマス重視、お正月軽視」である。
クリスマスには、夫は戸外の電飾に励み、妻の手作りリースを玄関ドアや室内のあちこちに飾り、これまた妻の趣味であるトールペイントでこしらえたサンタやトナカイを所狭しと並べ、子どもの人数分だけ(!)ツリーを置き、子どもの人数分だけ(!)クリスマスケーキを用意し、チキン(ファストフードだったり、デパ地下だったり)料理を買ってきて、ワインとシャンメリー(子ども用)で「ムードたっぷり」に盛り上がって楽しむ。
なぜ「子どもの人数分」必要かというと、「きょうだいは平等であるべきだから」だそうだ。
ケーキは市販のスポンジを人数分買って、きょうだいそれぞれがトッピングする。
「ツリーもケーキも、子どもの作品ですから」
……その気持はわからなくもない(泣笑)。
ウチは一人っ子だ。何人もお子さんのいるご家庭、どうですかっ。きのめさん、おさかさん。
いっぽう、お正月。元旦の食卓にはカップ麺とペットボトル飲料。「お正月にはおせちというものを食べるのだということを子どもにはきちんと伝えたいから」という家庭では、小さな「おせちパック」みたいなものを買っておいて、テーブルの真ん中に「飾って眺める」。本物のおせちは夫か妻どちらかの「実家で食べる」。
でも訪問した実家では、彼らはまったく動かない。姑と義姉が忙しそうに立ち働いているのを見ると「お客様の私も手伝わないと悪いかなあ」と思うそうだ。思うけど、これ運んで、それ盛りつけて、なんて「用事をいいつけられると、何で私が、と思う」そうだ。
注連縄や鏡餅の役割を知っているかという質問には「魔除けでしょ」といい、どんな正月飾りをどこに置いているかを聞くと「ウチではそういう季節のお供えの場所は決まってる」とか「みんなの目につきやすいテレビの上」とか「いっさい飾らない」。
ことほど左様に、お正月は虐待されている。そしてクリスマスは歪んだ優遇のされ方をしている。
日本古来の伝統を何が何でも維持しなくては、などというつもりはない。
岩村さんも、そんなことは言ってない。
でも、このように、「格差」が見える二大イベントの食卓は、どちらもやはり貧相なのである。どちらも「外注」なのである。
食が貧しいと、心身の発達に影響するのだぞ。
自戒も込めて、いう。食卓を見直そうよ。
私はスローフードとかロハスとか、なんとかビオとかには興味はない。
でも、やっぱもうちょっと、立ち止まって考えて、食卓を用意したい。そう思ったのだった。
内田さんのサイトで今日、本書関連のイベントが紹介されていた。
東京方面の方、ぜひどうぞ。
http://www.shinchosha.co.jp/event/index.html#200802
コメント
_ きのめ ― 2008/01/30 22:37:10
_ おさか ― 2008/01/31 09:34:41
実は私、前著含め購入して読み、母にもこっそり♪送りましたの
母は「これって私のことじゃん・・・・」とまさに同じような感想(笑
「実家に帰りおせち料理をつくらない娘」
あたしのことだー!!!(爆
料理のお手伝いは確かにしないけど、でもお客様だから、という意識ではなく「ここんちの主婦じゃないから」という理由が一番ですね
朝寝坊の自分の子どもの分は作るし(つまり台所があいているとき)
お節は、第一子がおなかにいるとき、どうせ里帰りするから、と一度だけ年末年始を埼玉ですごしたときがあって、そんときは一応作ったよ。ごまめ、黒豆、煮豆、栗きんとん、お煮しめ、お雑煮(福井と愛媛両方)。年越しそばも一応。だから多分今でもやろうと思えばできる・・・ってこれも本の中の主婦の言葉でしたね、やば(笑
クリスマスね。うちはツリーは飾るけど、ひとつです。しかも飾りつけは三人でやらせます。今年は姉はめんどくさがって、息子と次女でやってました。ケーキは買うけど一個だよ、当然。ある程度みんなが食べれそうなのを選びます。生クリームにイチゴのオーソドックスなやつでしたが、イチゴ嫌いな次女は姉にどんどん渡していて、長女ほくほく♪どーにでもなるもんです。
正月は私の実家。一応本家なので兄弟一家が全員集まり、えらいことになってます。一番多いときで大人8人、子ども6人!当然義姉と母だけでは回らないのでいろいろ手伝います。さっきも書いたけど料理以外のことならほぼ全部やります。後片付けや皿洗い、お風呂の用意とか、洗濯物取り入れてたたむとか、部屋の掃除。何より子どもたちは従兄弟同士で遊びまくって楽しいし、親も子どもにまとわりつかれなくて助かるので、これで均衡が保たれている感じです。
私ね、あとやってほしい調査があって。
東京近郊の家庭がディズニーランドに行く回数と、その家族の内実。
うちめったに行かないんだけど、長女が学校で「あんたんち、ありえない」と言われてしまうらしくって(笑
ほんとにみんなそんなに行くのかよ!あんな混んでるとこに!
と、すっごい疑問。
うちは「大学生になったら平日にカレシと行け」と言ってます(笑
_ midi ― 2008/01/31 19:53:23
本書にはお正月準備として山のように冷凍食品を買い込む家庭にも言及してたけど、気をつけなきゃねー。こわいこわい。
きのめさん
呼んだよ!
>市販のミニシュークリームを積み重ねて生クリームでトッピング
そのシュークリームケーキは1人に1タワーずつあるわけじゃないでしょ? みんなで作るんだよね?
おさかさん
ははははは、読んだんだ。面白いよねえ。いってみたらどうですか、新潮社のトークイベント?
>ほんとにみんなそんなに行くのかよ!
行くんだよー。こっちからだってリッチファミリーは学休ごとに行ってるよ。子どもが行きたいのか親が行きたいのかは知らないけどさ。休み明けのお土産ラッシュが済むとさ、ディズニーランド袋がすっごくたまっているのに気づきます(再利用する我が家。笑)。一度も行ったことないのはウチをはじめとして居るには居るけどムチャ少数派。
娘は行きたがってます。選挙権得てからバイトしてお金貯めて勝手に行け、といってますが、そんな大人になったら行きたくないかもしれないから今行きたい、などとぬかしよります。
_ おさか ― 2008/01/31 20:24:56
>親が行きたいのか
子どもはまあ、当然行きたがるんですが、何より親のやる気ですよね。幼稚園の知り合いで、子どもが園に行っている間に毎日のように通っている人がいるみたいです。年間パスポート買って。九時から二時くらいまでの間にですよ。こうなるともう狂ってるとしか思えません(笑
埼玉から近いとはいっても、ゆうに一時間半はかかりますよ、電車でも。
何回も行くところは、親が行きたいんです!それは九割がた間違いない!
私も大学生のころは年に二回くらいは行ってましたが、それも二月のさっむい平日のみ。休日に子連れであの行列に並ぶ気力も根性も情熱もありません。旦那とだってクリスマスファンタジーなんか行ったことないのに(笑
_ きのめ ― 2008/02/01 08:09:28
>シュークリームケーキは1人に1タワーずつあるわけじゃないでしょ?
それと、本文の”人数分だけ”という意味がいまいちよくわかっていなかった。
ひとつのケーキを人数分に分けるのじゃなく、ケーキが一人に一ホールずつ当たるのね。なんてうらやましい。
うちのシュークリームのツリーは一本だけですよ。だからじゃんけんで順番をつけて好きなシューを取るんだよ。最後のほうになると当たらないやつも泣くやつも出てくる。親も燃える壮絶バトル。原価は500円かかってないかもしれない。うちには機会均等ということさえないときがあります。貧者の弱肉強食。
_ midi ― 2008/02/01 10:18:46
おさかさん
ごめんなさーい、ゆうべ再コメントくださってたのね。
>子どもが園に行っている間に毎日のように通っている人がいるみたいです
はっきりいう。「ばっかじゃねーの?」
いや、失礼。
そのお母さんにとってはベストの行動なんですよね、きっと。子どもが園に行っている間に家の掃除をするとか、パートに行くとか、読書するとか、ママ友とお茶するとか、お母さんの時間の過ごし方はいろいろだけど、そういう多様な行動の中の一つなんだ。土日の混み合うディズニーランドでむずがる子どもと一緒に行列作ってストレスためるより、そのほうがカシコイかもね、ディズニー好きなお母さんにとっては。自分が楽しめればいいんだもん。
私にはディズニーランドとディズニーシーとディズニーリゾートの区別がつかないんですが、同じものなの? 別の場所にある別の施設なの?
きのめさん
>ケーキが一人に一ホールずつ当たるのね
そうなのよ。きっとさ、たまにはいいよね。いつも取り合って喧嘩している兄弟が年に一回くらいはひとりに一つずつ平等に割り当てられるのも。だけどそういうことやってる家庭は年中毎日何につけても「平等」「均等割り」「個別対応メニュー」みたいですよ。
兄弟がたくさんいたり、複数世帯同居、なんていう大家族って、サバイバルってことを教える絶好の場所なんだけどなあ。今2世帯同居っていっても、玄関も台所も別にしてるんですよねえ。
_ おさか ― 2008/02/01 11:41:35
ディズニーランドというのはとにかくでかくてですね、おっしゃっている施設は全部同じ敷地にあります。私はシーの方は行ったことない。大人向きなんだってさ(鼻笑
私がもっとも違和感あるのは、三十や四十過ぎたいい大人が臆面もなく「ディズニー好き!」と言うこと。ダメとは言わないよ、でもちょっと恥じらいがほしいと思うのは私だけ?
サバイバル、うちには存在します。
例えばボテチの袋を開けた瞬間。
三人のうち誰かにより、あらかじめ小皿が用意されており、
姉が仕切って厳正なる(?)均等割りがなされています。
数えられるものはきっちりと数える(笑
多少、小さい方に気を遣ったりすることもありますが、基本は「あるものは均等に分ける」。時々泣きも入りますが、それもまた良し。
_ midi ― 2008/02/01 13:04:36
全部同じ敷地内にあるってことは、1枚の入場券で全部見てまわれるのかな?(時間的なことじゃなくて料金がカバーする範囲)
ディズニーの話で思い出したことがあるからまた別エントリ立てるね。
とくに何かを好きだったり、凝っていたり、マニアだったりするとさ、○○オタク(マニア、フェチ)とか、「キティラー」のように○○ラー、○○ターなんて言い方するけど、ディズニーの好きな人のことを呼称するしかた、ありませんよね。ないということは、ディズニーが好き、ディにーランドによく行っている、ということがそんな特別視されてないってことではないでしょうか。ええ中年が年間パスポート持って通う、ということが、この国では少数派の不思議な行動としては捉えられていないんですよね。だからみんな、堂々と宣言する(笑)。
長女ちゃん、えらいね!
3人以上の兄弟姉妹って、それぞれが自分の持ち場や役回りを自然と理解して自己主張や反抗のTPOを自覚することができるんだよね。お姉ちゃんも偉いけど、お姉ちゃんを時と場合によっては立てなくてはいけないことを自然と知っている長男くん、二人の駆け引きを見上げて世渡りを覚えるに違いない次女ちゃん、みんな楽しみだぜ!!! 羨ましいよ正直。
クリスマスって伴天連の祭りだから、日本人には関係ないと言われて育ちました。
奥さんは通ってた学校ミッション系だったんで、馬鹿騒ぎではないタイプのクリスマスだったようです。
で、うちのクリスマスは市販のミニシュークリームを積み重ねて生クリームでトッピングします。じゃんけんでそれを取る順番を決めて、大騒ぎしてます。
お正月の鏡餅は、ミニ臼でついたものを飾ります。おせちは奥さんが作ります。
結婚した当初、嫁さんに料理を教えたお袋は、大病をしたあとのここ数年炊事洗濯掃除すべて親父に任せてます。
今年実家に行くと、勤めていたときには家事を一切したことのない父が、息子の嫁さん二人と楽しそうに正月料理を作ってました。嫁さんと孫がいれば、実の息子二人は特に無理して帰省しなくてもいいと言っています。
まあ、それぞれの家庭でそれぞれのクリスマスと正月があるようです。