週の真ん中が休みだからこんなことになるんじゃないの?という話2008/12/03 18:57:08

今日の本とは全然関係ないけど、昨日見た「秋」です。


『水曜日のうそ』
クリスチャン・グルニエ著 河野万里子訳
講談社(2006年)


水曜日になったらこの本の話をしよう、と思って早や幾歳。って大げさだが実際すでに数か月。水曜日にブログ更新って簡単じゃありません。
気がつけば巷はクリスマスムードいっぱいだ。秋は? 来てたか? どこ行った?

この本、フランスでは児童書もしくはティーンエイジャー向け図書の範疇に入るだろうか。行きつけの図書館では一般の仏文学書架に入っていた。表紙も地味。フランスのこの辺の小説って、日本の図書ジャンルでは行き場がない。『ペギー・スー』シリーズですら、一般書架に入ってる。ハリー・ポッター(私は読んでないけど)あたりを読む子どもなら楽勝で読めると思うんだけど……児童書架においてくれよって感じのフランス小説、けっこうあるんですよねー。
まあ、たしかに仏語って、訳すと堅い言い回しの日本語になってしまう……話し言葉の乱れは日本に負けず劣らず凄まじいけど、書き言葉はガチッと確立されてるからなー。
でも何とか頑張って紹介していかないと児童書界からフランス文学の影が消えてしまうではないか! といってみたが、日本の出版界からは「いや、別に頑張らなくても、英米文学で十分足りてますから」っていわれそうだ。

ハイ、スミマセン。
だいたい、『マグヌス』を高校生が読む国なんだ。
http://midi.asablo.jp/blog/2008/08/27/3713448

Actes Sud Juniorという出版社から出ている「初めて読む小説シリーズ」は対象年齢が「9歳から」とある。9歳というとなんだかちっちゃいみたいだけど、フランスではCM1(小学校4年生に相当、「高学年」扱い)なので、子ども自身にも「読むぞ」という自覚が出てくるんじゃないか。その証拠にこのシリーズは大変読み応えのあるものが多くて、私などは夢中になって読んでしまう(赤面)。ほんとに「初めて読む」シリーズかよって思うくらい。面白いんだけどなあ。

本書『水曜日のうそ』の対象は9歳ではありません。フランスではコレージュ(小学校6年~中学3年相当)部門で文学賞を獲っている。本書の主人公イザベルは15歳。15歳だとだいたい「すべて経験済み」が普通のあの国では珍しくまだ恋に恋しているような少女として描かれている(物語の中でちゃんと彼氏ができるけど)。だからCM2(小学校5年生相当)くらいから読めちゃうと思う。

イザベルの家には毎水曜日おじいちゃんがお喋りにやってくる。水曜日は学校が休みだから、孫娘イザベルも、大学で教える息子(イザベルの父親)も家にいるからだ。わずかなこのひとときを、おじいちゃんはとても愛している。おじいちゃんのことを大好きなイザベルも、その来訪を楽しみにしている。ただ、イザベルの父だけがうんざりしていた。
そんな折、父親がリヨンの大学に空きポストを紹介されて、一家は引っ越しを決める。おじいちゃんには内緒で。おじいちゃんの水曜日のひとときのために、一家は水曜ごとにパリの元のアパルトマンにやって来て、いつもどおりそこで暮らしているかのように振る舞うのである。
それほど重要な、水曜日という週の真ん中の休日。
日本では起こりえない話である。
とはいえ、なんで水曜日なんだ、という理由さえ押さえて理解したら、話はよくわかる。もともと中学生向けの話だから、物語そのものはあまり複雑にはならない。読み進むと結末は見えてくる。

このおじいちゃんはほんとにいいおじいちゃんだ。
イザベルもよくできたものわかりのいい少女である。
父親が自分の父親(おじいちゃん)を疎ましがっているが、よくある父子関係だ。
母親は舅思いのよくできた嫁である。
この二人が知恵を絞ったあげくの「水曜日のうそ」。
イザベルの彼氏がまたそんなフランス男いるわけないと思わせるほどいい少年で、「うそ」にからんで重要な役回りを果たす。

なんとなく、模範的なあるいは平均的人々大集合、的な印象で、悪人や小賢しいヤツとか裏切り者とか冷血漢とか、そんなのが必ず出てくるモンばかり読んでるせいか、物足りない(笑)。でも、家族愛とか隣人愛とか、思春期とか高齢者問題とか、仕事優先の大人たちとか、いろいろと考えさせられる要素には事欠かない。
しかし大人にとっては、あまりに自明のことが並ぶような感じで盛り上がりに欠ける。子どもが読んでも盛り上がりに欠ける点では同じかもしれないが、考えることを知っている(ここが重要だが)子どもなら、イザベルを自分に置き換えて、祖父母や両親、近隣の人々、学校の友達との関係を見つめることができるだろう。

水曜日が休みだが、つまり週休3日なんだけど、フランスの学校の夏期休暇(学年末の長期休暇)も秋期休暇(万聖節休暇、墓参のためのお休み。日本のお彼岸)冬期休暇(クリスマス休暇、日本のお盆)も春期休暇(復活祭休暇)も、日本の各休暇とは比較にならないほど長いのである。
なのに高校生が『マグヌス』を読むのである(それはもういいってか)。

コメント

_ きのめ ― 2008/12/04 12:41:17

>児童書界からフランス文学の影が消えてしまうではないか
うーん、それは困るなぁ。

岩窟王
月曜物語
怪盗ルパン
学問のあるろばの話
三銃士
80日間世界一周
海底二万里
ペロー童話集
家なき子
青い鳥
ガルガンチュア物語
美女と野獣

こんなの読んで育ちました。
ただ、読みやすい少年少女文学全集フランス編でしたけど。(小学館 川端康成:監修)

_ midi ― 2008/12/04 18:45:09

私が従兄から譲り受けた「少年少女文学全集」の監修者も川端康成で、大人になってから「おおお」と気づきました。

英仏で児童文学の発達に差があるのは「子ども」をどう捉えているかの違いだということを聞いたことがあります。英は「将来の大人」とみなし、仏は「一定年齢に達するまでは動物」とみなす。
フランスって、基本マッチョなので、女・子どもは当たり前のように虐げられていタ時代が長かったんです。明治期に来日した画家のビゴは、日本の女性がおおらかで明るいことと子どもたちが大切に養育されていることに目を瞠ったそうです。

聞いた話ばかりで裏づけがないんですが。

_ 鹿王院知子 ― 2008/12/05 10:54:10

東福寺? 違いますか……どこだろう


すごく面白そうな本のご紹介ありがとうございます
図書館にあるのですか? (検索しろよ)

高校生って実はよく勉強していてとても賢いし
本を読むべき期間だと思います
だからちょっとばかしハードル高めの本を読んで欲しいなぁと思うのであります

_ おさか ― 2008/12/05 19:44:41

私「パレード」読んでなくて、読んでから来ようっとと思ってたら
新しい記事が(笑
すみません
こっちは長女も読めるかなあ、もしかして
ただあの人は読めるのは読めるだろうけど
そういう人の感情の機微とか理解してるのかどうかは不明
若いうちは読みたいように読めばいいのでしょうけどね

_ midi ― 2008/12/06 10:02:26

ひと息ついたと思ったのもつかの間、クリスマスツリーの居座るスペース確保のための整理整頓大掃除をしなくてはならないこの土日(笑)。

鹿王院知子さん
宇治川の中の島にかかる「中の橋」です。

>すごく面白そうな本
『水曜日のうそ』のことですよね?
図書館にありますよ。たぶん誰も借りてないですよ。
日本の高校生にはパール・バックの『大地』とか読んでほしい私。

おさかさん
『パレード』も『水曜日のうそ』も、長女ちゃんなら絶対読める。「理解」はずっと先でいいじゃんか。
ウチの子は『パレード』を読んだ後、「次はマンガ日本の歴史を借りてきて、平安末期から鎌倉の」といいよりました。今、どうも頭がそっちへハマっているようです。
長女ちゃんはロアルド・ダールとか、好きですか? 翻訳者泣かせの言葉遊びが多いですが、ウチの子は『BFG』を気に入ってほかの作品も全部読みました。

_ コマンタ ― 2008/12/06 16:52:30

蝶子さんは仕事がら朝飯前なんでしょうね。書評というのが苦手なぼくは読むたびに途方に暮れてますよ(笑)。

子供は二十歳になるまでは人間じゃないって、ルソー言ってませんでしたっけ。高校をでるまで文学を読んだことがなかったぼくは動物以外かもしれません。

_ midi ― 2008/12/07 07:57:38

コマンタさん
ああ、ルソーでしたか、明言してたのは。
子どもはanimaux、女はbetes。
現代フランス人も、無意識にその思想は継承しています。実はかの国で根深い男尊女卑意識!

_ おっちー ― 2008/12/08 16:59:36

 なんかいいお話の予感のする書評です。
 読んでみたいけど「予約」が一杯つまってるからなあ

 でもこういう本があるとかフランスの文学に関する青少年事情とか、この記事を読まなければ知らなかった多くのことが知ることができてよかったです。
 ありがたやです。

 少年少女文学面白いですよね。
 僕も夢中になって読むことがあります。
 絵本とか、いろいろ。^^

 また来ます。では。

_ midi ― 2008/12/08 18:48:26

おっちーさん、いらっしゃいませ。
お互いに「積ん読」状態からの脱出はなかなか実現しそうにないですね(笑)。

先日、ブータンの戴冠式の記事写真を新聞で見て、ブータンの民話集が読みたくなって借りてきました。素朴なお話もたまにはよいです。

_ 儚い預言者 ― 2008/12/10 12:02:52

 差別意識の深い懊悩は、今も世界的に見れば跋扈している。アメリカでもそうである。当地で活躍している日本人が言い知れず差別されているということをラジオで聞きました。あのイチローすら何かしらあるということを、有名トランペッターが言ってました。だから世界野球で、日本に執着あるぐらい応援、参加するのだと。
 たぶん今回のオバマも、勘ぐると一番政治的に厄介な時期を振り当てたのではないかと。冷静に見るとあながち外れているとも思わないほど世界はある激動を迎えつつあると思います。それはグローバルという反面的表徴です。

 ひとりひとりがそれぞれありながら、宇宙と一つであるという普遍意識に到達するのには、まだまだ幾多の逆らいと麻薬的逃避の、偏見の蜂起があるかもしれません。

_ midi ― 2008/12/11 13:27:18

私、絶対にマケインが選ばれると思っていた。そういう国なんだもの、あの国。カラードはどこまでもカラード。

オバマ氏だって、私の敬愛するセゼールやグリッサン(彼らとてクレオールだからブラックじゃない)に比べたら、ただ日焼けしすぎた感の浅黒いオッサンだ。オバマの中には、自分は奴隷船に乗って大陸にやってきたニグロの末裔ではなく母は北欧人なんだからなっっっていう意識が絶対あるはずで、それは彼がアメリカ人だから当然のこと。
華奢な大統領。側近が(ある意味)頑張れば、従来どおりのアメリカキープで大したチェンジはないでしょうね。

トラックバック